東京・赤坂のホテルで、日本ではじめての、世界料理フェスティバルが催され、私も出席した。
世界の国々から日本、フランス、中国、アメリカなど一四か国が参加し、それぞれのお国自慢の料理を、その国の一流コックが持ち込みの材料を使って腕を振るった。
私のような食いしん坊には珍しい料理もあって目も楽しませてくれ、愉快な一夜であった。
その国の料理、たとえばフランス料理の本当の味はフランスでしか味わえないというのが私の持論だが、今回の催しは一夜のことでもあり、可能な限りの材料を、その国から持ち込んだので、たしかに本場の味であった。とはいえ、料理は昼頃に作られて、賞味したのは夜も七時過ぎだったから、旨いという思いにはほど遠かった。
私が予想したとおり、フランスが大賞を獲得し、続いて中国、日本が入賞した。
今回、欧州から参加したのは、フランス、ベルギー、スイス、スペイン、イタリアの各国だったが、フランス料理が図抜けてよかった。
フランス王政の頃、美食家のルイ一四世お抱えのコックは三二四名もいたというから驚きである。それが、かの有名なルイ一六世のお妃、マリー・アントワネットの「パンがなければお菓子をお食べ!」の一言でフランス革命は成就し、四〇〇人近くいたコックは全員失業して、町場のコックとして生活しなければならなくなった。フランス料理は革命によって、より一層の向上を遂げたのである。
この日、日本料理は技術賞を受賞した。材料の生地を生かした料理は巧緻でいかにも優雅であった。ただし各国の料理と比べると、いささかオードブルの感ありで、その点、中国料理は、飛ぶものは飛行機、四つ足はテーブル以外は何でも食べるといわれるだけあってドン欲である。
美食家は日本人の女性を女房にして(近頃はちと相場が下がった)、中国料理を食べながら、フランス(これも下落気味)に住むことが理想だそうだが、中国料理は日本で食べてもそこそこの味がするから、たいしたものである。