大阪伊丹空港近くの池田市に「呉春」という銘酒がある。その造り酒屋のご主人、西田さんは面白いお方だ。作家・谷崎潤一郎の崇拝者で、戦中戦後の食い物のない時代にせっせと山海の珍味を探し出しては、自分は食べずに谷崎家へ運んだという奇特な御仁で、いまは、本当に旨い酒をと、老いの身を忘れて精進されている。
生産量はそう多くないので、一般の人の口にはなかなか入りにくいようだが、たしかに一|盞《さん》の価値はある。二度ほどお宅にお邪魔したが、夫人手作りの酒肴は料理屋のそれでなく、「呉春」に合わせた酒菜で、久しぶりに酒と肴を堪能した。
早掘りの筍が旨かった。毎年、京都の錦市場の八百屋「川政」に白子筍が出廻り、値段も目玉を剥くようなことがなくなったら送ってくれと頼んであったので、四月八日お釈迦さまの日に到来した。その日の朝、掘ったものである。
早速、赤唐辛子と|糠《ぬか》を入れたたっぷりの水でゆであげたが、掘りたてだったので例年になく出来がよくて、ゆであがりも早くやわらかい。筍御飯、じか煮で食べたが、五合の御飯があっという間になくなった。
この頃では、松茸よりも旨い筍に食欲がおきる。昔は筍には栄養がないといわれていたが、当節は、筍にもいろいろミネラルがあるといわれている。おかしなものだ。