四月半ばに、九州博多と北海道の旭川、函館に行った。
旭川も函館も温かくて、東京よりは一か月遅れのつもりで少し厚着をしていったのだが、当てが外れた。しかし、東京ではすっかり散った桜は、まだこちらでは|蕾《つぼみ》も固くてその気も見せていない。
旭川では、銘柄は聞かなかったが、一升瓶の地の赤ワインを飲んだ。ブーケは物足りなかったが、色もよくて適当に渋味もあり、まあまあのワインだった。
ヨーロッパのワインに追いつくまでになるのはまだまだ先の事と思うが、嗜好が高まれば、器用な日本人のことだから、いいワインを作るだろう。日本で飲む舶来のワインは、あまりにも高すぎる。
函館では、久しぶりに旨い毛ガニ[#「毛ガニ」に傍点]にありついた。一匹九〇〇グラムもある大物だ。
土地の人に「今が旬ですよ」と言われたが、私が毛ガニの|丸《まる》|物《もの》にお目にかかったのは、戦後も二〇年を経てからのことなので、いつが本当の旬なのかよく知らない。
ただ、現在の主な漁場はオホーツク海と道東太平洋岸で、同じ北海道でも盛漁期が違うようだ。
オホーツク側では夏が旬だといい、道東では冬が旬だという。カニは脱皮を繰り返して大きくなるが、道東では春が近くなると脱皮し、オホーツク海では五月が脱皮期であるという。
函館で食べたのだから、多分、道東ものだと思う。とすれば、ちょっとおかしな言い廻しだが、旬の最後に獲れたカニなのかも知れない。
しかし、そんな|穿《せん》|鑿《さく》は抜きにして、ゆでた毛ガニの甲羅を剥いで汁気たっぷりの味噌や真白なむき身をせせると、よくぞ北海道に来たと思う。