北海道の毛ガニを話題に乗せたからには、九州の旬のものも挙げずばなるまい。
なんといっても、冬の味覚はふぐ[#「ふぐ」に傍点]に止めを刺す。そして、二月も半ばすぎると、博多西部を流れる室見川へ|白《しろ》|魚《うお》が産卵のため上がってくる。
体長四センチほどの、飴色に向うが透けて見える細く小さな目高のような小魚で、故郷の川へ戻り産卵を終えると、短い一年の生涯を閉じる。
味わうという魚ではないが、まあ、春の風情を桜とともに食べるとでも言おうか。
白魚の踊り[#「踊り」に傍点]食いはご当地の名物だが、わずか一年の生涯を人間の腹中に納めてしまうのは、残酷物語と言えなくもない。
那珂川沿いの柳橋連合市場を覗いたら、「あぶってかも(雀鯛)」が皿に盛付けされて置いてあった。
雀鯛といっても鯛科の魚ではなく、一〇〜一三、四センチ程の黒色の小魚である。春の終わり、四月の末から五月にかけてが旬である。
|炙《あぶ》って噛もうの字義通り、塩をたっぷり振って焼魚にして、頭からウロコ、内臓までも食べてしまう。塩分の強いことを除けたら、まさに保健食である。
以前は、魚屋の店頭に、たっぷりと粗塩の布団をかけられて盛りつけてあったが、この頃は流行りの嫌塩のためか、塩をかけられた「あぶってかも」をあまり見かけない。
一見気になるウロコも、炙るとそれほどのこともなく、甘鯛のウロコより気にならない。小魚のくせに骨太だが、博多女子は、それを頭からバリバリ噛みくだくから、アナ恐ろしやである。
白身で淡泊でありながら、脂が充分に乗っていて、下魚だがその味を一度覚えたら忘れられない。しかも、調理は塩焼だけというのが、九州の魚らしくて気に入っている。