インカの国ペルーは、日本の四倍ほどの広さを持っているが、首都リマ市から海の方へ一歩踏み出すと、そこはサハラ砂漠かと思われるほどの砂漠地帯であり、山へ一歩あるけばアンデスのジャングルに行きつき、アマゾンの源流が激しく岩を噛んでいるという不思議な国である。
南半球に位置するこの国の気候はちょっと変わっていて、海岸寄りのリマ市は十一月から三月までが乾期で、四月半ばから十月まではシトシトと霧と雨の合いの子のようなインカの涙雨的現象が続く。山寄りのアンデス地方は、海岸と反対で乾期になる。
この気候の変化は、ペルー人に海の幸・山の幸を適当に恵むが、フンボルト海流の流れが変わってから海の幸はすっかり駄目になったそうだ。
この国のカキやウニは彼等が食べないので獲られないせいか、大きく成長しカキは大きなアワビの一倍半ほどもある。ウニも赤子の頭ほどもある。だからイシモチも体長一メートル余、体重一五キロほどのものが釣れる。
ペヘ・サッポ(カエル魚)は、|顔面《かおつつら》が蛙に似た、吸盤を持った二〇センチほどの魚である。カジカ科の魚かとも思うが、魚肉は白身で、中国風に|清蒸《ちんじよん》にするとまさに絶品である。
アミーゴ、ドン・ルーチョ松藤はリマ市に「松栄」という鮨屋を持っている。ここで私はペヘ・サッポを毎晩のように食べ続けたので、お腹が蛙のようにふくらんでしまった。
玉蜀黍、トマトはメキシコとペルーが原産地だとされている。リマでもクスコでも市場をのぞくと、インディオのおかみさんが道端にうずたかく積みあげて売っていたが、その種類の多いのに驚いた。
玉蜀黍からはチィチャという酒を作り、インディオは祭りの日にそれを飲む。まあ、日本の|御《お》|神《み》|酒《き》にあたるといってもいいだろう。
彼等のご馳走はクイというモルモットの一種で、アンデスでは古くから食用ネズミとして飼われている。鶏のように熱湯につけて毛をむしってから焼く。海岸地方ではあまり食べないようだが、やわらかくてクセがない。食用蛙も焼いたり揚げたりして食べる。
パチャマンカという野外料理もある。パチャマンカは、地面に穴を掘って石を焼き、その石で、豚・羊・鶏・クイ等の肉類のほか芋・玉蜀黍などを、味付けした肉と香草を重ねて再び埋めて蒸し焼きにする。ポリネシヤの料理と似ているが、味はもっと複雑だ。
面白いことに、サヤ付きのまま入れる空豆は、日本移民が持っていったものだが、これを入れないと本当のパチャマンカでないという。他には魚パチャマンカもある。