「早場米ですが、食べくらべて下さい」といって、米屋が宮崎米と高知米の五キロ二袋を届けてきた。宮崎県のお米はコシヒカリである。
早速、両方を粥にして食味した。新米は水加減が難しい。私は、新米は必ず粥炊きにして水分の吸収具合を見る。宮崎産米も高知産米も水の吸収率に変わりなかったが、味は宮崎産米の方がよかった。
米食を一日に一回は食卓に出すわが家では、米の善し悪しには無関心ではいられない。
私は、米を炊くのに厚手の鋳物鍋をガス火にかけて炊く。そして、充分蒸らしをかけてからお|櫃《ひつ》に移すのだが、お櫃に移して、はじめて御飯の善し悪しがわかる。
お櫃は、一升と八合の二個あるが、小さい方は母の形見である。もう五〇年も使っているものだから、洗って日干しするとき、よほど気をつけないと干し過ぎてタガが外れてガタガタになる。
もうひとつの方は、私が秋田で見つけて買ってきた。青森へ映画のロケーションで行った折、青森の空港の気流が悪くて降りられず、秋田空港へ着陸した。東京、九州で探して無くて、青森でも探したが無かった。秋田ならばと秋田駅前の雑貨屋を尋ねたらあったのだ。
もっともその後、東京池袋の西武百貨店の炊事器具売り場を歩いていたら、そこにもあった。
「なあんだ、あんなに探していたのに」とちょっと気落ちしたが、値段は秋田のお櫃の方が大分安かったので気が治まった。
白木のお櫃は、遠からず日本人の食卓から消え去るものであろうが、先人の知恵の産物として是非残しておきたい食器である。