八月の初め、所用があって京都へ行き、錦市場を覗いたら、お馴染みの八百屋「川政」に松茸が出ていた。
「へえ、もう松茸かい」と私が言うと、番頭の好岡さんが笑いながら、
「韓国物だっせ。なんや知らん|時《と》|季《き》をわきまえない外道が出てきたんですわ。香りもなんもありません」
と素っ気ない口調で言った。どうしようかと思ったが、話の種にとコロ(傘の開いてないもの)を選んで五〇〇グラムばかり買った。
東京へ帰って早速吸物に使ったが、ただ松茸の|恰《かっ》|好《こう》をしただけのもので、物珍しさだけが取柄だった。
去年は、松茸のシーズンにカナダ産の松茸が大量に入った。この松茸、おかしなことに色が白い。丹波の松茸と違って、ただドボンとした見てくれの悪い松茸だったが、味は(松茸に味は無いから風味とでも言おうか)韓国物より良かった。
松茸は人工栽培は難しいようだが、松露の人工栽培に成功したという記事を読んだ。松露は山陰地方の砂丘で採れるのだが、もし本当に人工栽培が成功したとしたら、日本産「トリフ」としてフランスへ輸出できるかもしれない。
トリフ入りフォアグラの缶詰を得々として彼地から土産に持ち返ったら、フォアグラ(ガチョウの肝、これも日本で作られるようになった)もトリフも我が国から彼地へ輸出したものだった、なんていう|噺《はなし》はできすぎかな……。
以前にヨーロッパへ行った折、ローマのレストランでスパゲッティ・ボンゴレ(あさりのスパゲッティ)を注文したら、コックが営業用の缶詰を持ってきて、このあさりはお前の国から入ってきたものだから旨いだろうと言われたとき、それまで食べていたスパゲッティが急に味噌臭くなった覚えがある。