富山の料理屋で紅ずわい[#「紅ずわい」に傍点]が出た。形は越前ガニと同じだが、赤色が鮮明である。ただし、味は越前ガニより数等倍落ちる。翌る日の新聞をひろげたら、魚河岸に揚がった紅ずわいのせり市風景が出ていて、結構な値が付けられていた。
それでも、食卓にだされたときは、越前ガニかと一瞬胸がドキリとした。
北陸の海の幸はこれからが|旬《しゅん》である。ゴリ、ハチメ、ブリ、マダラ、ズワイガニ、アマエビ、ナマコ、アワビ、バイ貝……冬の北陸は、ひと月食べ暮しても尽きることがない。
加賀百万石の城下町金沢は菓子の町でもある。茶どころで生み育てられた菓子は、森八の銘菓「長生殿」「ちとせ」、板屋の「芝がき」など、いかにも風流な菓子である。
ホタルイカは、日本では富山湾だけでしか|漁《と》れない(新潟沖でも漁れるようになった)。生は三月から四月にかけて御当地だけでしか味わえないが、ひとゆでしたものは、冷凍技術の発達したこの頃では一年中食べることができる。
酢味噌和えが最高だが、甘辛く照煮にしたり、私はちょっとひねってサラダにしたりする。
アマエビもカナダ産のものが輸入されて、東京の鮨屋などにも一年中あるが、やはりこれからが旨い。
赤い鎧をつけたアマエビは、ほかのエビと違って殻もむきやすい。頭を取って殻をクルリと取り、ワサビ醤油か生姜醤油で食べる。知らぬうちに数を食べてしまう。