私は松茸は買うものではない、いただき物で秋を味わうものであるというのが持論だが、京都の錦小路市場を歩いて、値上がりのひどい諸物価に較べて、まあまあの値のとき、傘のひらいた一本も買って松茸御飯に吸物、酒蒸しとひと夜の膳をしゃれるのも悪くないと思う。事実そういう夕餉を何度か仕度した。
そんな夕餉を何度も迎えないうちに、足の早い冬が来た。我が家の庭の柿の木は二本とも実をつけないまま、葉が赤くなり、落ちてしまい、丸坊主になってしまった。
私は、柿のなりわいを見て、鍋物にかかる。冬の夜長を過すには、鍋物が安くて安直である。例えば、湯豆腐鍋ひとつにしても、たら[#「たら」に傍点]やかき[#「かき」に傍点]、ひき肉だんごなどを入れると、たちまち仕掛が変わってくる。
冬には、伜どもが喜ぶので、私はよくポトォーフーを作る。これはフランスの鍋物である。フランス人というと、なにかひどく豪華でオシャレなグルメ人種とわれわれは思いがちだが、実のところ、意外にケチで仕末屋なのがフランス人である。このPOT AU FEUもその産物である。彼等ははじめによく煮込んだスープを飲み、次の夜には野菜、三日目にはスープと肉をと実に無駄のない食生活を過す。
材料は、ぜいたくを言えばキリがないが、家庭で作る分には、脂肪と肉のほどよく混ざった牛バラ肉二〇〇グラムとすね肉二〇〇グラム(又はカレー・シチュー用に角切りした牛肉)をかたまりで求める。ほかに、玉ねぎを一個(六つ割りにする)、長ねぎ一本を四センチに切っておく。
厚手の鍋にサラダオイル大さじ一杯を熱し、玉ねぎと長ねぎをさっと炒め、そこへ水を入れる。これは肉を入れて、人さし指二節ぐらいまでの分量である。そしてローリエ(月桂樹)、セロリ、パセリの茎などの香り草を入れ、中火でコトコトと煮込む。中途でアクが出るから、丁寧にすくいとる。別に、人参、馬鈴薯、キャベツなどを大切りにして水煮しておく。欲を言えば、牛骨の二、三本を金づちでくだいて、一緒に煮込むと一層よい味になる。
肉が柔らかくなったら、香り草や骨をひきあげ、野菜を入れ、ブイヨンの固形スープを適宜に入れ、塩、胡椒、化学調味料で味を整え、日本酒かブドー酒を少々入れて風味を加えて出来あがり。食べ残したら、次の晩にはカレー料理に使えばよい。