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大阪経由17時10分の死者04

时间: 2019-04-25    进入日语论坛
核心提示: 殺人事件発生の報告を受けて、山下署の署長以下、刑事課長、刑事、鑑識係などを乗せた三台のパトカーが現場へ到着したのは、午
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 殺人事件発生の報告を受けて、山下署の署長以下、刑事課長、刑事、鑑識係などを乗せた三台のパトカーが現場へ到着したのは、午後一時十五分である。
 検視の結果、死亡推定時刻は、午前十一時半から、十二時半の間と判明した。絶命後間がないので、これはほとんど誤差のない推定といえる。
 しかし、刺されてから失血死までの時間が三十分と見られるので、犯行は十一時から十二時の間、と断定された。
「サングラスの男が、息急き切ってフランス山を駆けおりてきた時間と、ぴたり一致するな」
 と、中山部長刑事はうなずいた。
 死者の血液はO型だった。この点も、文庫本に付着した血液型と合致する。
 文庫本は、最初から犯人(サングラスの男)が持っていたものなのか、被害者が所有していたのをサングラスの男が奪ったのか、この時点では分からない。
 はっきりしているのは、いずれが持っていた文庫本であったにしろ、それが、殺人事件と深いかかわりを持っている事実だ。
 血液O型の被害者は、身元を明かすものを何も所持していなかった。
 ブルゾンというラフな格好からも分かるように、それは、休日の服装なのである。たとえば、通勤定期券とか、身分証明書の類はどこにも見当たらない。
 だが、被害者の生活は、裕福な感じだ。
 バックスキンのブルゾンにしても高級品のようだし、腕時計はスイス製のピアジュ、靴はイギリス製のバーバリといった具合に、一流品を身につけているのである。
 その高級腕時計も、財布も奪われてはいないのだから、物盗りの犯行とは違う。財布には、五万円余りの現金が入っている。
 では、通り魔か?
 実際、シンナー中毒者などによる無差別刺殺事件も、後を絶ってはいない。そうした犯行は、特に、春先に集中する。
 最近も、東京・中央区のオフィス街で、白昼、信号待ちで歩道に立っていた女性が、ナイフを持った男に、突然刺殺されるという事件が発生している。この犯人の場合は、精神分裂病患者だった。
 通り魔事件は、犯人が男で、被害者は女性という例が多いけれども、男性が男性を襲うことも皆無とはいえない。
 横浜市内では、二年前の、やはり春先四月、こともあろうに、神奈川県警交通規制課長が、出勤途中、信号待ちのところを背後から刺殺されるという事件が起こっている。
 これも、犯人は精神病院から抜け出してきた男で、場所が、今回の現場とそれほど離れてはいないのである。
 通り魔の線も十分考慮しながら、県警捜査一課の応援を得て、捜査本部が設置された。山下署二階道場のドアに、『港の見える丘公園殺人事件捜査本部』と大書された貼り紙が下がった。
 被害者の身元確認が、最優先事項となる。署長を捜査本部長とする第一回目の捜査会議が開かれたのは、午後四時からである。
 当然、問題となったのは、サングラスの男が落としていった文庫本だ。
「著者は梶井基次郎、書名は『檸檬《れもん》』となっています」
 と、鑑識係が黒板の前に進み出て、報告した。
 鑑識係は、文庫本から数種類の指紋が検出されたことを言った。
 いずれも新しい指紋だった。それは、文庫本が事件発生前後に、数人の手を経ていることを示している。
 サングラスの男とぶつかった、山梨県大月市から遊びにきた恋人同士は、文庫本に触れていない。
 文庫本を港の見える丘公園前の派出所へ届けたのは、その後通りかかったカップルの方だ。
「後のアベックは、男女とも、文庫本に触れています。それと、届けられた文庫本を受けとった派出所の巡査。以上三人の指紋を除外すると、最近付着したと考えられる新しい指紋は、三点です」
 鑑識係は、黒板に、「変体紋」「てい状紋」「渦状紋」と書き出し、「変体紋」の下に「被害者」と記して、双方を太い線でつないだ。
「結局、残るてい状紋と渦状紋。このいずれかがサングラスの男、すなわち犯人《ほし》ということになるでしょう」
 と、鑑識係はメモをとる捜査員を見回した。
 しかし、県警本部の鑑識課と、警察庁指紋センターに問い合わせた結果、被害者を含めた三つの指紋に、前科、前歴はないことが判明している。
 次いで鑑識係は、刃渡り十一センチの果物ナイフからは、ひとつの指紋も採取されなかったことを強調して、自席へ戻った。文庫本には鮮明な指紋が残っているのに、凶器からだれの指紋も発見されないとは、どういうことか。
 当然、犯人がナイフの指紋をぬぐい、犯行に際しては、手袋を用いたからだろう。凶器に指紋を残さないよう注意したのであれば、これは、通り魔による発作的な犯行ではない。
 計画的な殺人事件ということになろう。物盗りでないことは、はっきりしているのだから、動機は怨恨か。
 代わっては、長身の刑事課長が、立ち上がり、
「私の推定ですが、犯人《ほし》は渦状紋ではないでしょうか」
 と、ファイルを繰りながら言った。
 根拠は、文庫本の百六十二ページである。百六十二ページからの四ページは、『桜の樹の下には』という題名の小品だった。「桜の樹の下には屍体が埋まっている!」で始まる冒頭の五行に傍線が引かれてあり、見開きの百六十三ページには、新聞の切り抜きが、クリップでとめてあったのだ。
「傍線が引かれてあるのは、全体の中で、このページ一ヵ所ですし、新聞の切り抜きが挟《はさ》んであるのも、ここだけです。そして、このページから検出されたのは、変体紋、すなわち被害者《がいしや》の指紋と、もうひとつ、渦状紋のみでした。百六十二ページと、新聞の切り抜きに意味があるとすれば、被害者《がいしや》以外の指紋、この渦状紋こそ、本《ほん》犯人《ぼし》ではないでしょうか」
 刑事課長は、新聞の切り抜きを示した。
 これは、朝刊だけ発行している地元紙の、二月十二日付文化欄に掲載されていたもので、
「三月から四月にかけての、文化情報の一部であることが分かりました」
 と、刑事課長は言った。
 問題の記事は、今年の「シドモア桜の会」は、四月二日(土)に開催されるという予告だった。
「主催者である地元文化団体に電話で問い合わせたところ、エリザ・シドモアは、米人女性ジャーナリストだったそうです。ワシントン市ポトマック川畔桜並木の、生みの親であるという話でした」
 シドモアは明治十七年頃から三回に亘って来日し、親日小説『ヘーグ条約の命ずるままに』などを発表している。
 彼女の遺骨が、彼女が愛したニッポンのヨコハマに埋骨されたのは、昭和四年十一月三十日である。
「墓は、山手外人墓地の中腹です。墓前に桜が植樹され、墓前祭が営まれるようになったのは、昨年からです」
 と、刑事課長はメモを読み上げるようにして、説明した。
 昨年植樹された墓前の桜は、まだ五十センチほどの高さに過ぎないが、つぼみをつけている。
 墓前で「さくら、さくら……」のフルートが演奏され、参加者が一人ずつ献花して、セレモニーは終了する。
 今日がその四月二日だ。
 今年は午前十一時から開かれ、三十人ほどが参加したという。
 被害者は、墓前祭に出席した一人なのか。
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