王寺署の刑事課長がそれに気付いたのは、奈良県警捜査一課の応援で、捜査本部が設置されることになったときである。
朝、やっと目覚めた矢先に呼び出された刑事課長は、まだ朝刊に目を通していなかった。その点は、署長以下、他の捜査員にしても同様である。
刑事課長が新聞を手にしたのは、司法検視を終えて本署に引き上げ、朝食を取るときだった。
まず、社会面の犯罪記事から追っていくのは、刑事の習性だ。
奈良県下とその周辺に、目立つ事件はなかった。
大きい見出しとなっていたのが、横浜の、外人墓地近くの殺人事件である。
「これは、どういうことなんだ?」
みそ汁をすすりながら、社会面を開いた刑事課長の目は、「血まみれの文庫本」と記された、小見出しに吸い寄せられた。
朝食どころではなくなった。
「見たまえ!」
刑事課長は、同じテーブルで向かい合い、どんぶりめしをかっこんでいる二人の部下に、朝刊を突き出した。