甲高い声で電話をかけてきたのは、『週刊広場』の編集長だった。
「日曜日だってのに、新宿の将棋センターへいかないとは、このところ負けが込んでいるのかな」
「今日はテレビですよ。ゆうべ飲み過ぎたので、今日はおとなしく、ビデオで将棋の研究をしていました。テレビ将棋も、四月から新しくなるんですよ」
「ビデオにかじりつきでは、ニュースを見てないな」
「すぐにでも使えるネタですか」
「奈良の夜桜を、見物にいってもらうことになりそうだ」
「奈良?」
「朝刊には間に合わない事件《やま》だし、今日は夕刊がない。敏腕ルポライターなら、テレビニュースぐらい、がっちり見ていてくれなければ困るじゃないか」
編集長は、浦上の反応が鈍いので、すでにかっかしている。
「典型的な複合殺人だ。横浜絡みの殺人《ころし》だから、浦上ちゃんにとっては、他社に抜かれるわけにはいくまい」
「待ってくださいよ」
浦上伸介は受話器を左手に持ったまま、右手を伸ばして、ビデオをとめた。
時間が不規則なルポライターの、独り暮らしの部屋は乱雑である。
東京都|目黒《めぐろ》区、東横線中目黒駅から徒歩にして五分。九階建て『セントラルマンション』の三階、307号室の1DKが、シングルライフをつづけている三十二歳の住居であり、仕事場だった。
「横浜絡みの殺人《ころし》といえば」
と、浦上は受話器を持ち直した。
現在横浜に設置されている捜査本部は、菊名署と山下署だ。浦上も、それは承知している。
「うん、港の見える丘公園の方だ。テレビニュースなので、詳しいことは分からないがね、山下署と奈良の王寺署と、双方の殺人犯が同一人だってわけさ」
と、編集長はさらに甲高い声になった。