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大阪経由17時10分の死者16

时间: 2019-04-25    进入日语论坛
核心提示: 翌四月四日、月曜日。 桜の花はまだ開き切らないのに、東京は朝から小雨になった。 浦上伸介は早起きをした。コーヒーメーカ
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 翌四月四日、月曜日。
 桜の花はまだ開き切らないのに、東京は朝から小雨になった。
 浦上伸介は早起きをした。コーヒーメーカーでキリマンジェロを淹《い》れ、トーストを一枚だけ食べて、『セントラルマンション』を後にした。
 東横線で渋谷へ出、渋谷から井の頭線に乗り換えて、下北沢まで、待ち時間を入れても三十分ほどだった。
 寺沢隆の家は、しゃれた商店街の、すぐ裏手に位置していた。
 敷地はそれほど広くないが、鉄筋三階建ての瀟洒《しようしや》な白壁が四月の雨に濡れており、門の左手に一本、花をつけ始めた大きな桜の木があった。
 ブロック塀に沿って、ずらっと高級乗用車がとまっている。
 突然の不幸で主人を喪《な》くした家は、密葬の準備に追われていた。
 浦上が門を入ると、桜の木の下で葬儀社を指示していた初老の男が、
「週刊誌ですか」
 名刺を見て、渋い顔をした。新聞社やテレビ局などが、すでに何社もきているけれど、取材は一切断わっているというのである。
 初老の男は、どうやら、『徳光製靴』の幹部社員らしい。
 浦上は粘らなかった。こうした状況下では、名刺だけ置いて、黙って身を引くのが浦上の遣《や》り方だった。
 浦上はショルダーバッグから一眼レフのカメラを取り出すと、桜の大木を左隅に入れる構図で、白い三階建てに向けて、何枚かシャッターを切った。
 浦上が聞き込みに立ち寄ったのは、両隣の家である。最初から、取材の重点は近所の家に置いていた。
 両隣は、どちらも中流以上といった感じの門構えであり、応対に出た中年の主婦も品がよかった。
 それだけに、『週刊広場』特派記者の名刺を提示すると、どちらの主婦も警戒的なまなざしになった。
 しかし、結局質問に応じてくれたのは、浦上の人柄のせいだろう。
 浦上は口の利き方も、風貌も、派手ではなかった。
 中肉中背の童顔。仕事はできるけれども、その言動は、どちらかといえば、控え目な方だ。
 それに、寺沢は事件の加害者ではない。犯人サイドの取材はやりにくいものだが、寺沢は、不幸な被害者なのである。この点も、主婦の口を開かせるのに役立ったようだ。
「ご家族思いの、いい方でしたよ」
 両隣の主婦は、異口同音に、その点を強調した。
 多少は割り引いてメモする必要もあろうが、それにしても、故人は、家庭的なタイプだったらしい。妻の母親を引き取って同居するような人間だし、その義母とも、うまくいっていたというのである。
 家族そろっての旅行も、今回が初めてではなかった。季節の変わり目には、よく小旅行に出かけたし、昨年の夏には、やはり五人で、ハワイへ行ったという話だった。
「寺沢さんは、横浜にご親戚とか、親しい知人がいると聞かれたことはありませんか」
 浦上が最後にそれを尋ねたのは、無論、大森が刺殺された事件との関連を探るためだった。
「さあ、詳しくは存じませんが、亡くなられたご主人はドライブがお好きでしてね。横浜へもよく行かれてたようですよ」
 と、これも二人の主婦の一致した返事だった。
 しかし、このドライブは、休日の家族連れではなかった。「仕事の後のストレス解消」のためのもので、夜、独りで、車を飛ばして行くのだという。
「夜のドライブは、ご近所でも目立つほど多かったのですか」
「そうですわね。週末には、決まってお出かけになっていらしたみたい。大会社の部長さんでは、ストレスも多いのではないですか」
 と、これまた、二人の主婦に共通する返事だった。
 浦上は、小雨を避けるようにして、商店街へ戻った。
 近くに酒屋があった。
 酒屋は店を開けた矢先だった。若い店員が二人、軽トラックにドライビールを積み込んでいる。
「こう言っちゃ、悪いけど、あの旦那《だんな》、ちょっと変なところがあるんじゃない?」
 と、思いも寄らないことを聞き込んだのが、酒屋の店員たちからだった。
「あの旦那、日曜日なんかに、たまに、そこのハンバーガーショップに来てたんだけどさ」
 と、二十歳《はたち》前後の若い店員は、浦上の質問にこたえて、二軒先の店を指差した。そっちも、いま、店を開いたところだった。スタンド形式の、若者の客が多く集まりそうなインテリアである。
 一流会社の総務部長が立ち寄るような店ではないが、寺沢は休日の、散歩の途中にでも利用したのだろうか。
 寺沢は、時間をかけて、アメリカンコーヒーを飲んでいたという。
 寺沢が紙コップを手にして、立つ場所は決まっており、
「それがね、一番端っこの出入口に近い所なんだけど」
 と、一人が言い、もう一人の店員がこう言い添えた。
「その向かいに洋品店があるでしょ。これはね、その息子が発見したことなんだ。あの旦那、そうやってスタンドでコーヒーを飲みながら、通りを行く若い女の子を、じっと目で追いかけているんですよ」
「目で追いかける?」
 それが珍しいことなのか。
 きれいな女性が通りかかれば、無意識のうちに視線が吸い寄せられるのは、男性としてよくあることではないのか。
「それが、そうじゃないんだね。洋品店の息子に言われてから、オレたちも何となく注意するようになったのだけどさ、あの旦那の場合は、若い女の子を眺めるのが目的で、そこのハンバーガーショップへやってくるのですよ」
 と、一人が言い、もう一人がことばを重ねる。
「そう、それに間違いない。こっちがそう思って見るせいか、何とも、いやらしい目付きでね」
「しかし、洋品店の息子さんは、いくらお向かいで店番しているとはいえ、よくそんなことに気付いたものですね。いやらしいまなざしで、通りを行く美人を見詰めているのはともかくとして、寺沢さんが具体的に、女性に何かを仕出かしたというようなうわさが、あるわけではないでしょ」
「そりゃ、そうだよ。社会的な地位のある人だもの。そこは、それ、理性ってものがあるでしょ。でもさ、目で追いかける分には自由だものね」
 と、若い店員は口をそろえた。
 商店街は小雨のせいか、午前の早い時間のためか、まだ、それほど人が出ていない。
 浦上はハンバーガーショップの前を歩いて、下北沢駅へ戻った。
 人間の目は、思いもかけないことを捉えているものだな、と考えた。そして、若い店員たちが話題にしているような、寺沢の�行為�が事実であったとしても、別に不自然なことではないだろう、と、浦上は自分の中でつぶやいていた。
 たとえば、謹厳実直と評される人間にも、社会で見せる顔とは全く逆な一面が、あるはずだ。
 寺沢が休息日の午後、それこそサンダル履きで、ハンバーガーショップへやってきて、会社とか、家族の前では見せたことのないいやらしい目をしていたとしても、それ自体は、責められることではあるまい。
 別な見方をすれば、それも人間味というものだろう。
 浦上は吉祥寺《きちじようじ》までの切符を買って、改札口を通った。
 井の頭線のホームは、小田急線と交差して高架式になっている。
(待てよ)
 浦上がふとある一点に目を据《す》えたのは、見晴らしのいいホームに立ったときである。
 寺沢の中の、その別な一面が、犯人にとって、殺人の動機になっていることはないか。浦上の脳裏を、判然としないままに過《よぎ》ったのが、それだった。
 商店街の若い店員たちは、寺沢の休日の�行為�を何となく意識したが、それは、元来だれにも知られてはいないことなので、その辺りに�動機�が隠されているとすれば、家族とか、会社関係者などは、寺沢が狙われたことについて、だれもが、
『思い当たることはありません』
 と、こたえることになろう。
(しかし)
 浦上は首をひねった。
 この思い付きが、仮にその通りであったとしても、それが、殺人にまでエスカレートすることだろうか。
 浦上は未整理な状態で、じっと小雨の降る町を見下ろしていた。二人の、若い店員の証言も、いまはただ、ひとつのデータとしてメモするにとどまった。
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