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大阪経由17時10分の死者18

时间: 2019-04-25    进入日语论坛
核心提示: 浦上は、正午前に、『週刊広場』の編集部へ上がった。『週刊広場』は、大手綜合出版社の発行である。本社ビルは、皇居・平川門
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 浦上は、正午前に、『週刊広場』の編集部へ上がった。
『週刊広場』は、大手綜合出版社の発行である。本社ビルは、皇居・平川門に近い一ツ橋だが、週刊誌の方は、神田錦町の分室に入っていた。
 七階建て、細長い雑居ビルの三階が編集室になっている。
 編集長の机は大部屋の奥の窓際にあり、机の横に、小さい応接セットが、用意されてあった。
 新聞社の編集局と同じことで、週刊誌の編集部が活気を呈するのは、午後も遅くなってからだ。
 午前中は空席のみが目立つが、浦上が入っていくと、長身の編集長は早くも出社しており、
「や、ご苦労さん。うまくいったかね」
 と、取材結果を待っていた。
 浦上は応接セットで、編集長と向かい合った。
 編集長は愛用のパイプにハーフアンドハーフを詰め、パイプたばこをくゆらしながら、浦上の報告に耳を傾けた。
 浦上が、(昨夜谷田から入手した)報道管制が敷かれている情報を、最後に口にすると、
「ほう、桜の樹の下には屍体が埋まっている! か。梶井は、ぼくも、学生時代に愛読した記憶があるね」
 編集長は長身を乗り出してきた。
「浦上ちゃん、梶井の文庫本が、結果的にそれほど重要なキーではなかったとしても、特集の導入は、桜の樹の下の連続殺人で決まりだね」
 犯行の背景は、まだ皆目見当が付いていない。
 だが、編集長は、この同日二件の連続殺人が、「いけるネタ」であることを敏感にキャッチしていた。
 編集長の、長年の勘というものだろう。『週刊広場』の事件特集は、創刊以来、ユニークな切り込み方をすることで、定評があった。
 港の外人墓地と、古都の古刹《こさつ》。
 およそ関連を持たない二人の被害者が、どこでどう結び付いてくるのか。それは依然として厚い雲の中だが、犯人は同一人と断定されているのである。
 大森と寺沢の、殺された動機が別々であったとしても、どこかに、重なり合う部分がなければならない。それが判明すれば、容疑者も絞られてくる。
 山下署と王寺署の捜査本部も、もちろん�接点�の洗い出しを、最優先事項としている。
「しかし、浦上ちゃん、泰山と徳光製靴の取材は、葬式が一段落してからの方がいいんじゃないか」
「ぼくもそう思います」
 浦上が、今朝の取材がいまいちだったことを繰り返すと、
「ご両家が葬儀の後片付けをしている間に、奈良へ行ってきてもらうか」
 編集長はパイプをテーブルに置いた。
 浦上もそのつもりだった。出かけるなら早い方がいいし、一泊ぐらいの出張なら、旅慣れたルポライターにとって、旅の準備も不要だ。
 編集長もその辺りを察したか、
「すぐに出発するかね」
 と、出張費の仮払い伝票に判を押して、浦上の前に置いた。
 浦上は伝票を経理に回した。
 キャッシュが届くまでの時間を利用して、横浜へ電話を入れた。
 谷田は、県警本部の記者クラブから、山下署へ出向いていた。
 市外電話を山下署へかけ直すと、太い声が出てくるまでに、しばらく間があった。
「先輩、キャップ直々の取材ですか。捜査本部に動きがあったのですか」
「何もない。何もないけど、淡路警部がこっちに詰めているのでね。ま、ご機嫌伺いってわけさ」
「北沢と牟礼へ行ってきましたよ」
「大森の方が午前十一時、寺沢の密葬は自宅で午後一時からだろう。我社《うち》の若手も行っているのだが、カメラを構えたやつに会わなかったか」
 と、谷田は言った。浦上は気付かなかった。『毎朝日報』の若手記者は、目立たない物陰から撮影していたのかもしれない。
「ところで、妙なことを聞き込みました」
 浦上は、酒屋の店員たちから聞き出した内容と、マンションの住人から取材した結果を伝えた。
「ほう」
 谷田は関心を示した。『コーポ立野』は『毎朝日報』でも取材済みであり、大森が一種偏屈な性癖であることは聞き込んでいた。しかし、寺沢がそうした一面を持っていたとは、意外だったらしい。
「でも先輩、性格が少し変わっていようと、道行く女性を見詰めてよからぬ夢想に浸《ひた》ろうと、それ自体は事件に関係ないでしょう」
「そうだな。少なくとも、二人の習慣か何かで共通点でもあれば別だが、�偏屈な性癖�と、�よからぬ夢想�だけでは、これはストレートには重複しないね」
「大森はアルコール好きだけれど、寺沢の方は、酒よりもドライブで、ストレスを解消していたという話ですね」
「それなんだよ。お互い酒好きなら、バーかクラブで出会ったとも考えられるが、それもない」
「やっぱ、大森と寺沢の日常をどこまで掘り下げることができるか。その一点に、かかってきますか」
「今度の事件《やま》は、捜査本部が二つだろ。山下署と王寺署は、もちろん密接に協力し合っているが、心情的には、競い合う形になっている。それだけに、刑事《でか》さんたちは、昨夜も、遅くまで、徹底的な聞き込みをつづけていたようだ。しかし、何も浮かんでこないんだよ。家族、友人、そして、双方の会社をいくら当たっても、大森と寺沢の接点はどこにもないそうだ」
「ぼくは、これから奈良へ行きます。関西での取材結果がどうであれ、その後で、泰山と徳光製靴を訪ねるつもりです」
「刑事《でか》さんたちが、これほど厳しくやっているのに、何も出てこないんだよ。やるなら、百八十度、発想を転換する必要があるだろうね」
「百八十度?」
「口で言うのは簡単だが、どうすれば百八十度転換できるのか、オレにもさっぱり分からんよ」
「それにしても、妙な事件《やま》ですね」
「奇妙もいいところさ。被害者《がいしや》が、一人ならともかく、二人だよ。しかも、決して、通り魔的犯行でないことが証明されている。その上、被害者は二人とも早々に、身元が割れている。なぜ、動機の見当もつかないんだ? こんな話、聞いたことがない」
「例の文庫本が、問題となってきますかね」
 と、浦上は電話を切るときにつぶやいたが、つぶやきは、もちろん、何の裏付けも持たないものだった。
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