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大阪経由17時10分の死者20

时间: 2019-04-25    进入日语论坛
核心提示: 生駒《いこま》山地のふもとに位置する王寺は、昔から、交通の要衝として知られている。 現在も、関西本線のほかに、JR和歌
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 生駒《いこま》山地のふもとに位置する王寺は、昔から、交通の要衝として知られている。
 現在も、関西本線のほかに、JR和歌山線、近鉄の生駒線と田原本《たわらもと》線が入っており、町は活気を呈《てい》している。活気があるのは、信貴山への参拝口であると同時に、住宅団地の増加が著しいせいだった。
 駅前には、食堂とか土産物店とか大きいパチンコ屋などが並んでいる。
「ああ、おとついの人殺しね。犯人を乗せたのは、確かに、我社《うち》の運転手ですよ」
 と、そうした返事を浦上伸介が得たのは、パチンコ屋の近くで客待ちするタクシーに尋ねた結果だった。
「あいつ、さっき団地へ客乗せて行ったから、そろそろ戻ってくると思うよ」
 と、同じタクシー会社の運転手は、待っていたようにこたえた。
 横浜と関連する派手な殺人事件だけに、それは、当然、運転手仲間でも話題の中心となっているのだろう。お陰で、聞き込みに対する反応も早かったわけだ。
 浦上はキャスターを取り出し、窓越しに運転手に一本勧めてから、自分も火をつけた。
 その一本のたばこを吸い終わらないうちに、問題のタクシーが、駅前に帰ってきた。
「へえ、東京の週刊誌かね」
 当の運転手はびっくりしたように、浦上を見た。やせた、中年の運転手だった。
 浦上は最初に、神奈川県警が作成した似顔絵のコピーを提示した。
「うん、昨日刑事にも見せられた。似てはいるようだけどね」
 運転手は肯定も否定もしなかった。
 浦上は、そのタクシーに乗せてもらうことにした。取材先では、こんなふうにして、乗車の順番を無視してしまうことが、たまにある。
 浦上は客待ちをしている先着の運転手に事情を話して、団地から戻ってきた矢先のタクシーに乗った。
「おとついと同じコースを、同じように走ってくれませんか」
「あの男、全体の感じは派手だった。でも、人殺しをするような悪党には見えなかったけどなあ」
 中年の運転手は、一言そう言ってから、小雨の中へ車をスタートさせた。
 タクシーは国道25号線へ出て、大阪方向へ走り、すぐに右へ曲がった。
 町を出外れると、急に周囲が暗くなった。県道に入ってからはずっと上り坂で、右へ右へとカーブしていき、そのたびに人家が離れていく。
 初めて訪れる土地が雨に閉ざされ、しかも、次第に夜が深くなっていくのは、取材慣れのしたルポライターにしても、どこか心細いものである。
 寺沢隆を狙った犯人は、どのていどの土地鑑を持っていたのだろうか。
「そうだな。それほど詳しくはないが、初めてという感じじゃなかったね」
 と、運転手はこたえた。
 男は行きと帰りに一回ずつ電話をかけたが、坂の下の電話ボックスをちゃんと承知しており、男の方から電話ボックスを指定して、タクシーをとめさせたという。「それほど詳しくない」のなら、犯人は土地の人間ではない。
 しかし、犯行のための、下見はしてあったということだろう。
「おとついも、このぐらいな暗さでしたか」
「ああ。今夜みたいに雨こそ降ってなかったけど、花曇りだったからね。それに時間も、少しだけど、お客さんより遅かった」
「そうか、客を乗せた時間は、運転日報にちゃんと控えてあるわけですね」
「それもそうだが」
 刑事にしつこく聞かれたばかりなので、嫌でも頭にたたき込まれている、と、運転手は言った。
 王寺署の捜査本部が、信貴山への一つのルートである王寺駅周辺を聞き込むのは当たり前だ。
 だが、情報は、捜査員がやってくるよりも先に、運転手の方から届け出たものだった。
「明け番で洗車を終えたとき、テレビのニュースで事件を知ったんだ。それで、もしかしたら、と思って警察へ電話したら、刑事がぶっ飛んできた」
 タクシー会社の営業所へやってきた二人の捜査員は、時間をかけて、詳しい経緯を聞き込んでいったという。
 そして夕方には、新しく作成された男の似顔絵持参で、今度は運転手の畠田の自宅まで、捜査員が訪ねてきたという。
 初耳だった。
 淡路警部をぴったりマークしている谷田実憲にしても、もちろん、王寺署のそうした動きをつかんではいない。
 それは重要な決め手だ。王寺署の捜査本部は、緘口令《かんこうれい》を敷いているのだろう。
 そして、いずれ時間の問題で、新聞記者たちはそれをかぎ付けるだろうが、浦上がいま、早々とキャッチできたのも、現地を踏んだ成果にほかならない。
 初めての土地は、距離を遠く感じさせるが、そのていどのことを話し合っているうちに、タクシーは坂を上り切った。
 信貴大橋を渡った。
 大門池ははるか眼下なので、夜の帷が下りた現在では、確かめることができない。
「桜の老木はこの下にあってね、ホテル信貴に投宿したお客さんは、桜の木の根元で刺し殺されていたんだ」
 と、運転手は説明をつづけた。
 間もなく、左手に、木立ちに囲まれた駐車場が見えてきた。砂利が敷き詰められた広い駐車場には、ライトバンが一台とまっているだけだった。
 道の前方には、信貴生駒スカイラインの料金所があった。通行する車もなく、料金所は、電灯も暗い感じだった。
 駐車場の手前を右へ行くと、すでに戸を閉めているが張り子の虎を売る何軒かの土産物店があり、開運橋となる。
 一昨日の夜、タクシーの運転手は、ここの駐車場で待っていてくれ、と、犯人から頼まれたという。
「ぼくも、そうお願いします」
 浦上はチップとして、一万円を運転手の手に握らせた。
 そして、こう頼んだ。
「もちろん、待ち時間料金は別に払います。悪いけど、一緒に、朝護孫子寺まで散歩してくれませんか」
「あっしも長い間タクシーの運転手をしてるが、こんなことは初めてだね」
 中年の運転手は、そうした言い方で、浦上の依頼に応じた。
 
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