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大阪経由17時10分の死者26

时间: 2019-04-25    进入日语论坛
核心提示:「おつきあいは短かったけれど、どちらにもこの一年余り、いろいろ仕事をもらって、かわいがってもらいました。その大森課長と寺
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「おつきあいは短かったけれど、どちらにもこの一年余り、いろいろ仕事をもらって、かわいがってもらいました。その大森課長と寺沢部長が、同じ日に同じように刺し殺されたなんて、ぼくは、三日経ったいまでも信じられません」
 村田啓は、長髪をかき上げながら、切り出した。細い、女性的な指先だった。
 洋菓子店二階の喫茶室には、中年の品のいい主婦が二、三人ずつ、三組ほどが静かに談笑していたが、男性客は、窓際に陣取った三人だけである。
 浦上伸介と谷田実憲はコーヒーを注文し、村田はレモンティーにチーズケーキを、頼んだ。
 浦上は、あえて『週刊広場』特派記者の名刺を出さなかった。余計な警戒を、村田に与えたくなかったためである。
 従って、ボールペンを握って取材帳は開いたものの、質問は、谷田に一任する格好になった。
 村田が、そうした浦上を、谷田の配下と受けとめるのは、村田の勝手だ。
「新聞やテレビのニュースで、ご存じでしょうが、大森裕氏も、寺沢隆氏も同一犯人に殺害されたと警察では見ています」
 と、谷田は、殺人の動機がはっきりしないことと、大森と寺沢との間につながりがないことを、質問の導入とした。
「なるほど。それで、ぼくが取材されることになったのですか」
 村田は、回転が速そうだった。もちろん、いまは、サングラスなど、かけてはいない。
「確かに、ぼくは、大森課長とも、寺沢部長とも面識があるわけです。しかし、ぼくはただ、写真の仕事をさせてもらっていただけです。ぼくなんかで、お役に立てるのでしょうか」
 と、谷田と浦上に向けられた視線は、別に濁ってもいないし、不安定に揺れているわけでもない。
 谷田の横に控えた浦上は、犯人像についてのいくつかの証言を、自分の中で羅列していた。
 
『ぼくと同じような体型でした。一メートル六十八で、六十キロぐらいかな』『髪の長さは肩ぐらいだったと思います』(大月市からきた恋人同士)
『芸術家タイプっていうのかな。われわれとは人種が違うようでしたね』(信貴山駐車場脇の土産物店の従業員)
『全体の感じは派手だった。でも、人殺しをするような悪党には見えなかったけどなあ』(王寺のタクシー運転手)
『テレビタレントではないかと思ったのですよ。長髪もカッコよかったし、サングラスが、ぴたり決まっていましたね』(王寺駅前の中華料理店主)
 
 そのひとつひとつが、目の前の村田に当てはまるようでもあるし、そうでないようでもあった。
 村田は濃紺の麻のブルゾンに、白いコットンのスラックスという軽装だった。
 村田は脚を組んでレモンティーを引き寄せ、それからチーズケーキに手をつけた。
「村田さんは甘党ですか」
 と、谷田がさりげなく尋ねたのは、もちろん、アルコールを口にしなかったという、王寺の中華料理店の証言を、前提としたものだった。
「いえ、そんなことはありません」
 村田は、質問の真意に気付いたのか、どうか、にこりと笑ってこたえた。
「これで、アルコールも、結構いける方なのですよ。よく言う二刀流です。そうそう、大森課長さんとも、有楽町で、何度か飲んだことがありました」
「ほう、それは仕事を離れての、プライベートなおつきあいでしたか」
 谷田は何にでも食いついてやるぞといった感じで、しかし、表面は雑談ふうにつづけた。
「いいえ。私的な交際で、飲んでいたわけではありません」
 村田は言下に否定した。
「ご一緒したのは、この一年間で五回ぐらいかな。ええ、いつも泰山の近くにある同じバーでした。全部、仕事絡みです。打ち合わせとか、あるいは打ち上げとか、そんなときに連れて行ってもらいました」
「打ち合わせを終えてから、他の酒場へハシゴするようなことはなかったのですか」
「それは、ありませんでした。大体が、大森課長さんは、アルコールは強かったですが、単独行動が多かったみたいですよ。泰山の社内の人とも、仕事を離れての交流は少なかったのではないですか」
「徳光製靴の方はどうでしょう。寺沢部長とか、あるいは他のどなたかと、やはり飲む機会がありましたか」
「いいえ。徳光製靴の方と、クラブなどへ行ったことはありません。新商品の撮影で、大宮工場へ出張することは多かった。しかし、社外での打ち合わせは、一度もありませんでした」
 村田はケーキを食べ終えると、レモンティーを飲み、ホープに火をつけてから、改めて谷田の顔を見た。
「お話の様子では、このぼくが、殺された大森課長と寺沢部長、お二人を共通して知る唯一の人間という感じですが、警察もそう思っているのでしょうか。しかし、捜査本部からは何の連絡もありません。警察は、ぼくみたいな男は、重視していないということでしょうか」
 村田の口調とか表情は、喫茶室で向かい合ったそのときから一定している。
 ある意味では、つかみどころがないともいえる。
 犯人の似顔絵は、新聞にも、掲載されている。
 村田は、(たとえ本《ほん》犯人《ぼし》でなかったとしても)人一倍詳しく、報道記事に目を通しているはずだ。長髪という共通点が、村田の意識には上がらないのだろうか。
 村田は被害者二人をよく知っているとはいえ、自分は全く枠外といった顔をしているのである。
 短い沈黙がきた。
 沈黙の中で、谷田はちらっと浦上を見た。
『こうなったら、�動機�の追及は後回しだ』
 と、口にしたさっきと同じ、目の動きだった。
 谷田もたばこをくわえた。だが、火をつけようとはせずに、体の向きを変えた。
「村田さんが、最後に、お二人に会われたのはいつですか」
 矛先《ほこさき》を転換するための、きっかけを求める話しかけであることが、浦上に分かった。
「泰山へおじゃましたのは、三月十日でした。徳光製靴へ伺ったのは、その五日後だから、三月十五日ですね。どちらも東都ペンの代表者と一緒でした」
 と、村田がこたえると、
「今月は行ってないのですか」
 谷田はタイミングを逃さないようにして、質問を重ねた。
「ええ、新年度からは、予備校の仕事が入っていましてね」
 と、村田は、谷田と浦上の顔を、交互に見た。
「失礼ですが、どちらの予備校を撮影されているのですか」
「横浜ですよ」
「横浜?」
 こたえた村田は平然としているが、質問する谷田の方に、微妙な動揺が走った。
「四月になってからは、ずっと横浜へ通っているわけですか」
「ええ、撮影は午後からでしたけどね。金、土、日、と三日通いました」
「すると、四月二日の土曜日も、横浜にいらしたわけですか」
 ことば遣いに注意しながらも、焦点を絞った質問だ。
 これに対しても、村田はあっさりとこたえた。
「いまにして思えば、殺人事件が発覚して、大騒ぎしている頃、ぼくも同じ横浜市内で働いていたのですよね。もっとも、横浜といっても広いですから、そのときは何も気付きませんでしたが」
 と、村田は、(こっちが訊きもしないのに、なおかつもっとも知りたい)所在を、自分の方から言った。
 それは、横浜駅東口にある『東田予備校』だった。
 四月一日、二日、三日、いずれも、仕事は授業風景の撮影だった。
 村田は三日間とも、十二時十五分から、十四時四十分まで、五つの教室を回って、撮影をつづけていたという。
「大森氏が殺された日も、その予備校でカメラを構えていたわけですね」
「間に、五分ずつの休憩が三回入りました。しかし、ほとんどカメラをぶら下げたままでした」
「ところで、東都ペン関係者以外の方で、大森、寺沢両氏と面識のある人をご存じありませんか」
 谷田は形式的に、質問を戻した。
 そのための取材であることを、谷田は精一杯に強調しているのだが、すでに、「心ここにあらず」の状態だった。
 浦上も取材帳を閉じた。
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