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大阪経由17時10分の死者28

时间: 2019-04-25    进入日语论坛
核心提示:「どういうつもりなんだ」 谷田までが、そう言った。 浦上はカステラの空き箱を大事そうに手にして、『東田予備校』を出てきた
(单词翻译:双击或拖选)
「どういうつもりなんだ」
 谷田までが、そう言った。
 浦上はカステラの空き箱を大事そうに手にして、『東田予備校』を出てきたのである。
「先輩、この木箱には、村田の指紋がばっちり付着していますよ」
 それが、浦上のもくろみだった。
「なるほど。そういうことか」
 谷田は大きくうなずいたが、表情はいまひとつ冴えなかった。
(その箱から、本《ほん》犯人《ぼし》の渦状紋は検出されないだろうよ)
 と、そう考えていることが、冴えない表情に、ありありと反映されている。
「あの日、二時四十分まで、村田が東田予備校でカメラを構えていたことは、動かしようがないね、その気になれば、教室にいた生徒など、証人は何人でも出てくるだろう」
 舗道を行く谷田の足取りは重かった。
「気晴らしに、海を見てビールでも飲むか」
 谷田は、横浜駅へ行くのとは反対の、海側に足を向けた。
 シーバス乗船場には、エキゾチックなムードのレストランが付いている。
 浦上も、このまま『週刊広場』編集部へ行く気にはなれなかった。思い付きで、カステラの空き箱をちょうだいしてきたとはいえ、期待がそれほど大きくないのは、谷田と同じことだった。
『そごう』と、シーバス乗船場をつなぐアーケードの橋には、かもめ歩道橋という名前が付いている。
 その海に面した歩道橋を渡りながら、
「捜査本部には、動きが出ているでしょうかね」
 と、浦上が話しかけると、
「おい!」
 谷田が、ふいに厳しい顔付きになった。
「おい、時刻表を出せ!」
 そう口走りながらも、谷田の視線ははるか前方に向けられている。
 岸壁越しの、向こう側に見えるのは、横浜シティエアターミナルの、低い屋根だった。
「おい、いくら終着が奈良の信貴山だからって、空路を見落とすばかがあるか! 素人《とうしろ》っぽいミスもいいところだ!」
 谷田は本気で、怒り出していた。
 二人は急ぎ足で橋を渡り、レストランに飛び込んだ。
 明るいレストランはすいていた。
 浦上は、注文したビールが届く前に、ショルダーバッグから大判の時刻表を取り出していた。
 顔色が、見る間に変わってきた。
 昨日、新幹線車中でルートをチェックするとき、行き先が奈良ということで、最初に浮かんだのが、京都経由だった。浦上自身も、京都経由を選んだのであったが、次に、ごく自然に考えたのが名古屋経由。
 結局、同じ奈良といっても、信貴山の場合は、最後にチェックした大阪経由が、もっとも速かったわけである。
 そして、浦上がこの三つ以外のルートを注意しなかったのは、それで、�横浜�から�奈良�へ、犯人を移動させることが、可能だったからである。その上、犯人は、浦上の想定を裏付けて、十八時二十二分に、王寺駅から出てきたのだ。
 しかし、そのために、一時的にしろ視野が狭められていたなんて、弁明にも何もなりはしない。
 浦上はテーブルの上に取材帳を開いた。震える指先が、次々と数字を書き出していった。
 こうなったら、二つの殺人現場を結ぶルートは、すべて頭にたたき込んで置かなければなるまい。
 浦上は、(1)大阪経由、(2)名古屋経由、(3)京都経由につづいて、(4)南紀白浜空港経由、(5)大阪空港経由の二本を、取材帳に書きくわえた。
 
(4)南紀白浜空港経由
  港の見える丘公園発 十二時十分頃
  (タクシー二十分)
  横浜駅東口着 十二時三十五分頃
  横浜駅東口発 十二時四十分頃
  (タクシー、直通バス共三十分)
  羽田空港着 十三時十五分頃
  羽田空港発 十三時三十五分�JASC383便�
  南紀白浜空港着 十五時二十分
  南紀白浜空港発 十五時二十五分頃
  (タクシー十五分)
  白浜駅着 十五時四十分頃
  白浜駅発 十五時四十三分 L特急�くろしお19号�
  天王寺着 十七時四十六分
  天王寺発 十八時 JR関西本線快速
  王寺着 十八時二十二分
 
(5)大阪空港経由
  港の見える丘公園発 十四時三十五分頃
  横浜駅東口着 十五時頃
  横浜駅東口発 十五時五分頃
  羽田空港着 十五時四十分頃
  羽田空港発 十六時 �JAL119便�
  大阪空港着 十七時
  大阪空港発 十七時十分頃
  (タクシー三十分)
  天王寺着 十七時四十五分頃
  天王寺発 十八時 JR関西本線快速
  王寺着 十八時二十二分
 
 (4)の南紀白浜空港経由は、村田が犯人なら、全く無関係だ。
 しかし、村田で決まったわけではないので、この際、�横浜�から�奈良�へ移動可能なルートは、すべてチェックしたわけである。本《ほん》犯人《ぼし》は、この五つのルートのどれかを利用している。
 いや、「王寺着十八時二十二分」が確認されているのだから、利用したのは、(1)、(4)、(5)の中のどれか、ということになろう。
「これだな」
 谷田は(5)を指差し、大柄な体を乗り出してビールを注いだ。
 チェックミスを犯した浦上は、顔色《がんしよく》ないが、谷田は、『東田予備校』を出たときとは別人かと思えるほどの、太い声になっている。
「早速、淡路警部に連絡を取ろう。四月二日の�JAL119便�。この大阪行きに、身元不明の二十代の男がいたら、こっちのものだぞ」
 そう、十四時四十分に『東田予備校』での撮影を終えて、後片付けに時間をかけたとしても、羽田発十六時の空路に、悠々間に合うではないか。
「おい、乾杯は持ち越しだ」
 谷田はビールは注いだものの、コップを手にしようともせず、
「これはオレが預っていく」
 カステラの木箱を抱えて、せかせかと立ち上がっていた。
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