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大阪経由17時10分の死者31

时间: 2019-04-25    进入日语论坛
核心提示:「篠塚さん、寺沢さんはご存じありませんか。寺沢隆というのですが」「その人のことも、さっき横浜へ帰ってから、新聞で読んだわ
(单词翻译:双击或拖选)
「篠塚さん、寺沢さんはご存じありませんか。寺沢隆というのですが」
「その人のことも、さっき横浜へ帰ってから、新聞で読んだわよ。製靴会社の部長さんで、大森さんと同じような殺され方をしたというのでしょ」
「実は、二件の殺人《ころし》の犯人が同一人であることを裏付けている物証の一つは、文庫本でしてね」
「文庫本?」
「同じ書名の文庫本が、一冊ずつ、双方の周辺から発見されているのです。大森さんが所持していたと思われる方には、シドモア桜の会の、予告記事が挟んでありました」
「うん、それで警察が、わたしの家に電話してきたのかナ。それにしても、何であの男のことが分かったのかしら」
「あの男?」
「文庫って、梶井のでしょ。桜の樹の下には屍体が埋まっている! って冒頭の五行に傍線が引かれてあったのじゃなくて?」
 篠塚みやの方から、的確に、問題の文庫本の特徴を言った。
「篠塚さん、承知しているのですか。その文庫本、見たことがあるのですか」
 谷田の声が高ぶった。
 もう間違いない。みや自身にどれだけの自覚があるか分からないが、彼女は間違いなく、事件の周辺に置かれている。
 あの男、とはだれか?
 谷田は、しかし、質問をする前に、ぐっと一息入れた。
 ゆっくりと、ピース・ライトに火をつけた。
 昼食時間を過ぎたレストランは、空《す》いている。
 二人は、窓際のテーブルで向かい合っていた。みやは、仕立てのいい、藤色のスーツだった。
 女流詩人は帽子が好きで、よく似合うのだが、旅行帰りのこの日は、なぜか帽子を被《かぶ》っていなかった。
 谷田はビーフシチューにビールを注文し、昼食を済ませてきたというみやは、中ジョッキだけを頼んだ。
 みやもまた、谷田や浦上と同様、お茶よりはアルコールを愛するタイプなのである。本来は日本酒党だが、ジョッキにしたのは、昼間のせいだろう。
「大森裕とは、どういうおつきあいだったのですか」
「彼は横浜が好きなのかナ。わたしたちのペンクラブに入会したいということで、それで、そう二回会ったのよね。私的な交際ではなく、二回ともだれかの詩集の、出版記念会の席上でだったわ」
「地元ペンクラブに、県外の人も参加しているのですか」
「そうねえ、七十五人の会員のうち、現在、県外の人は、五人ぐらいいるんじゃないかナ」
 出版記念会場で声をかけられたというのは、大森も、その二度の出版記念会に招かれたということだろう。
「それは、だれとだれの出版記念会でしたか」
 谷田は、ビールがテーブルに載ったところで、取材帳を取り出していた。
「大森さんは、その詩集を出版した人たちと、お知り合いだったわけでしょう」
 と、谷田が尋ねると、
「そうじゃないね」
 みやは手を振った。
 大森は、地元新聞文化欄の予告記事を見て、自主参加したのだという。「シドモア桜の会」に、出席しようとした状況と同じだった。
 大森は、会社を出て仕事を離れてからは、他者と交わることが少なかった性格である。確かに、三十七歳になっても、どこかに文学青年の気質が尾を引いていたのだろう。
 大森は、日常生活を離れた場での、出版記念会のような雰囲気を、好んでいたのに違いない。
「大森さんは、篠塚さんたちのペンクラブに、入会することになったのですか」
「正式には、四月の総会で決まることになっていたのよ。うん、総会はこれから、下旬に開かれるのだけどね」
「篠塚さんは、傍線が引かれた文庫本を、どこで目にしたのですか」
 谷田は、本題に入った。
「あの男、とはだれのことですか」
「それが変な話なのよ。二月の中旬だったかなあ。昼間、電話があって、若い男性が突然、港南区のわたしの家に訪ねてきたのよ」
 みやはジョッキに口をつけた。
 その若い男性は、地元ペンクラブの会長に会おうとしたのだが、たまたま会長は風邪で臥《ふ》せっており、
『そういうことなら』
 と、会長は副会長のみやを紹介してきたのだという。「そういうこと」とは何か。
「男の人の似顔絵を持ってきてね、心当たりはありませんか、と訊くのよ」
「似顔絵?」
「新聞から切り抜いた小さい似顔絵が二つ、手帳に張り付けてあったわ」
 その二人がペンクラブの関係者ではないか、という質問内容は、四日前、山下署の中山部長刑事が、みやの留守宅へ電話をかけた目的に共通していた。
 中山部長刑事の方は、被害者が大森裕であると判明して目的を達したが、みやを訪ねてきた若い男が提示した似顔絵とは、何だろう?
 それが、事件に関係したものであり、神奈川県下に限っていえば、菊名署に捜査本部を置いた殺人事件が挙げられる。
 今回の事件を別にして、最近報道された似顔絵といえば、(まして容疑者が二名となれば)そのホステス絞殺事件のものだけだ。
 二月十二日、金曜日の深夜に発生した事件であり、ホステスの全裸死体が発見されたのは、新横浜駅に近いモーテル、『菊水』の一室だった。
 山下署に今回の捜査本部が設置されるまで、一課の淡路警部の出向していたのが、この絞殺事件である。
 谷田自身も、何度か、菊名署の捜査本部とモーテル『菊水』を取材している。
 犯人の手がかりが皆目つかめず、迷宮入りがささやかれている難事件に、地元ペンクラブの副会長である女流詩人が、微妙にかかわってくるというのか。
 谷田は、菊名署の捜査本部が配付した似顔絵を、もちろん、はっきりと記憶している。容疑者は二人とも、二十代から三十代という推定で、耳が隠れる程度の長髪だった。
 二人とも前髪が乱れており、一人はメタルフレームの眼鏡、一人は黒いフレームの眼鏡をかけている。
「そう、そういう似顔絵だったわ」
 と、みやは谷田の説明にうなずいた。
「で、二つの似顔絵の見当がついたのですか」
「すぐには分からなかったナ。でも、新聞の切り抜きが挟んである文庫本を見せられて、あるいは、と連想したのよね」
「何ですって? 傍線が引かれた文庫本は、篠塚さんを訪ねてきた、その若い男が所持していたというのですか」
 谷田は大柄な半身を、テーブルの上に乗り出さんばかりにした。その若い男性が、大森に文庫本を送り付けてきた、「桜」なのだろうか。
「文庫本を見せられて、何を連想したのですか」
「うん、その文庫本がね、似顔絵の二人のうちの、どちらかのものではないかと言われてね、大森さんが、同じ文庫本を持っていたことを、思い出したのよ」
 出版記念会の会場で会ったとき、大森は四月二日の墓前祭に出席すると言い、地元紙の切り抜きを、みやに見せた。切り抜きが、その文庫本に挟んであったのを、みやは覚えているという。
「しかし、大森さんは、似顔絵の二人みたいな長髪でもなければ、眼鏡もかけてはいないでしょう」
「それはそうだし、前髪の垂れた似顔絵でしょ。だから、顔の輪郭も正確には分からない。でも、気のせいか、メタルフレームをかけている方の似顔絵が」
「大森さんに似てるって、いうのですか」
「目元、口元、それにあごの辺りが、その気になれば、似ていなくもない。それでね、わたしの知ってる人とは違うけど、知ってる人の兄弟かもしれない、と、その若い男性に教えてあげました」
「もう一点の似顔絵はどうでしょう? やはり、だれかに似ていましたか」
「もう一つは、全く心当たりがなかったわ」
「ところで、突然、篠塚さんのお宅へ現れた若い男は、どこの何者で、何ゆえ、似顔絵の男を追及していたのですか」
「文庫本には、地元文化団体が主催する墓前祭の、予告記事の切り抜きが挟んであったわけでしょ。切り抜きを見て、わたしたちのペンクラブに問い合わせてきた、とは言ってたけど」
「身元は打ち明けなかったのですか」
「わたしってね、その点、おうようなんだナ。相手が嫌がっているのに、無理に聞き出したりするの、好きじゃない」
 みやは高い声で言い、またジョッキに口をつけた。みやは、面倒見はいいが、細かいことにはこだわらない性格だった。
 みやは出版記念会の席上で、大森と名刺を交換している。
 大森の名刺を、二月中旬のそのとき、若い男性に見せてやった。これは、広告代理店『泰山』の、雑誌部第二企画課長と肩書の入った、職場のものだった。
 若い男はそれを手帳に控え、きちんと礼を言って帰って行ったという。
「二十代後半ってとこかナ。ごく平凡な、サラリーマンという感じだったわよ。うん、印象は悪くなかった」
 と、みやは谷田の質問にこたえて言った。
 刑事でもない男が、犯人を捜す。常識的に考えれば、被害者サイドの人間、ということになる。
「篠塚さん、この話は、しばらく他の人たちには伏せておいていただけませんか」
「それは構わない。いままでだって、だれにも話していないのだから。問題は山下署ね、電話もらったまま、放っておいていいのかしら」
「あれは、あの日のうちにケリが付きました」
 谷田は、大森の妻からの問い合わせで、大森の身元が割れた経緯を簡単に説明した。
「あら、そういうことだったの。でも、大森さんは、何であんな殺され方をしたのかね。わたしも、気持ちはよくないわ」
「どうして殺されたのか、動機がさっぱり分からないので、捜査本部も手を焼いているようです」
 谷田は事実をそのままこたえたが、
(ひょっとして、これは誤解殺人ということも、考えられるか)
 と、ある一点を見た。
 モーテル『菊水』で絞殺されたホステスと親しかった人間(すなわち、篠塚みやを訪ねてきた若い男性)が、みやの一言から、犯人の一人を大森と思い込んでしまったとしたら、どうなるのか。
「見てください。その男は、こういう感じではなかったですか」
 谷田は、山下署と王寺署が追っている容疑者の似顔絵を、みやの前に置いた。
「違うね」
 みやは一目で否定した。
「いまも言ったでしょ。平凡なサラリーマンという印象だったのよ。こんな長髪じゃなかったわ」
 すると、実行犯は、若い男の命を受けた、別の人間ということになるのだろうか。
 大森裕の殺人動機が�誤解殺人�であるなら、寺沢隆の場合も、誤解で刺殺されたことになるのか。
 しかし、たとえ誤解であるにしろ、同じように狙われたということは、大森と寺沢は、どこかでつながりを持っていなければならない。
 犯人は、どこから、その接点を探り出してきたのだろう?
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