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大阪経由17時10分の死者32

时间: 2019-04-25    进入日语论坛
核心提示: 谷田実憲は、レストランを出て、篠塚みやと別れた。 いったん支局へ上がった。『毎朝日報』横浜支局は、桜木町駅に近かった。
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 谷田実憲は、レストランを出て、篠塚みやと別れた。
 いったん支局へ上がった。
『毎朝日報』横浜支局は、桜木町駅に近かった。大江橋の傍に立つ五階建ての古いビルである。
 一階は販売を担当する『横浜毎朝会』とガレージ。二階の大部屋が編集室になっている。
 午後も二時半を過ぎて、取材に出ていた記者たちが、ぽつぽつと戻ってくる時間だった。谷田は今後の取材方法を支局長と相談し、村田啓に会うため自由が丘へ出かけた若い記者の報告を、支局で待つことにした。そのための連絡を県警本部記者クラブへ入れて支局長席へ戻ると、
「淡路警部には申し訳ないが、我社《うち》の完全スクープの線で、潜行取材をしてはどうかね」
 小太りな支局長は、大柄な谷田を見上げた。カステラ木箱の分析を、東京本社社会部へ依頼しようと思い付いたときから、支局長には、その肚があったらしい。
「ま、週刊広場の浦上さんとは、協力することになるだろうけど」
「そうですね。しばらく、このままの線でそっと動いてみますか」
 と、谷田はこたえた。
�誤解殺人�であるにしろ、そうでないにしろ、当面問題となるのは、二ヵ月近く前の二月中旬に、問題の文庫本持参でみやを訪ねてきたという若い男だ。
「モーテル菊水の取材は、きみが陣頭指揮を取っていたわけだ。被害者《がいしや》周辺で、思い当たる人間はいないのかね」
「さっきから考えているのですが、殺されたホステスは男関係がきれいだった、と、スナックのママも、常連客たちも口をそろえていましたね」
「特定の男はいなかったというのか」
「そう、彼女、同棲などはしていなかったのですよね」
 と、谷田はこたえ、真冬の取材を思い返すようにして、ピース・ライトに火をつけた。
 二月十二日、金曜日の深夜。新横浜駅近くのモーテルで、全裸で絞殺されていたのは、スナック『ラムゼ』のホステス、波木明美《なみきあけみ》三十一歳である。
『ラムゼ』は横浜市内の南区、京浜急行|弘明寺《ぐみようじ》駅近くにある小さい店だった。五十歳のママのほかに、ホステスが二人。
 ホステスのもう一人は、住み込みで二十一歳の新顔だから、接客の中心となっていたのが、殺された明美だった。
 明美は、新潟県|北蒲原《きたかんばら》郡の出身。色白でほっそりとした、典型的な新潟美人と評判だったという。
 当然なことに、明美は『ラムゼ』の常連客にも人気があった。
「確認を取ったわけではありませんが、明美の生家は、北蒲原郡では一応の家柄だと聞いています。両親を亡くして、三年前に横浜に出てきたという話ですが、殺された明美は、一度結婚に失敗しています。死亡時の住所は、ラムゼに近い南区永田台の花之木ハイツ12号室。2DKの賃貸マンションです」
 と、谷田は言った。
 このていどの内容なら、取材帳を確認するまでもなく説明することができる。キャップの谷田自身が、菊名署の捜査本部へ、何度も足を運んだ事件なのである。
 二月十二日、金曜日の夜、スナック『ラムゼ』は空いていた。
 常連客の多くは、サラリーマンだった。花金《はなきん》といっても、十日過ぎの数日は、数えるほどしか客がこない。
 ママと二人のホステスが、退屈を持て余しているところへ入ってきたのが、東野《ひがしの》という常連客だった。
 午後九時を過ぎた頃である。
 東野哲は三十五歳。同じ南区の、六ツ川に住むサラリーマンだった。
 東野には、二人の連れがいた。連れは「アーさん」「イーさん」と呼ばれていたが、それが、本名とは何の関係もないらしいことは、後で分かった。
 その場の思いつきで、ただアイウエオ順に、「ア」「イ」と並べただけらしいのである。
 東野と「アーさん」は、『ラムゼ』に入ってきたときから相当に酔っていたが、「イーさん」はそれほどでもなかった。
 それは、「イーさん」が車できているためだった。
『イーさんも飲もうよ。車なんか置いていけばいい』
 と、東野と「アーさん」が、しきりに話しかけているのを、ママは耳にしている。
 アルコールの回った三人は、相当に親しい感じだった。
 三人は東野のボトルをあけてしまったので、「アーさん」の名前で、新しいウイスキーを入れた。しかし、新しいボトルには、ほとんど手をつけずに、立ち上がっていた。
 それが、午後十一時頃である。
『明美さん、イーさんの車で送っていくよ』
 と、東野が誘った。
 普通、『ラムゼ』の営業時間は、十二時までとなっている。客が立て込む月末の土曜日は、深夜一時近くになることもある。
 その夜は、そうではなかった。午後九時以降、客は、東野たち三人しかいない。
 その三人が、帰ろうというのである。
『明美さん、送っていただいたら』
 と、ママも同意した。
 初めての客の誘いなら、もちろん、笑顔ですらりと体を交わすところだ。しかし、相手は常連客だし、一人でもない。
 明美が住む『花之木ハイツ』は、東野の自宅と同一方向だった。しかも、東野が住む六ツ川より手前であることも、余計な警戒を抱かせなかったようである。
『ラムゼ』は早仕舞いをし、明美は「イーさん」が運転するホワイトの乗用車に乗って、夜の中へ消えて行った。
『明日は土曜日だから、早目にくるわね』
 明美は、ママと、住み込みの若いホステスに笑顔を残した。
 それが、ママと若いホステスが、明美の生きている姿を見た最後となった。
「谷田くん、アーさんとイーさんは長髪だったね」
 支局長は、考える口調になった。
「そう、これです」
 谷田は気軽く立っていき、手配用の二枚の似顔絵を持ってきて、支局長の机に載せた。似顔絵は前髪を乱した長髪で、一人はメタルフレームの眼鏡、一人は黒いフレームの眼鏡をかけている。
 メタルフレームが「アーさん」、黒いフレームが「イーさん」。二人とも二十代から三十代だった、と、『ラムゼ』のママは証言している。
「このメタルフレームが、大森に似ているかね」
「確かに、篠塚みやさんに指摘されてみれば、似てますね」
「大森は茨城の出身で、三人兄弟だったな」
「長髪の兄弟がいるのかどうか、当たって見る必要はあるかもしれませんね」
 谷田は似顔絵を見詰めた。
 事件当夜、『ラムゼ』から明美を誘い出した東野は、ほとんど泥酔状態だった。「イーさん」の車に同乗したことは覚えているが、どこで降りたのか、降ろされたのか、そっちの記憶は、あいまいだった。
『気がついたら、菅田《すげた》の団地の中を、ふらふらと歩いていました』
 と、東野は申し立てている。
 神奈川区の菅田町は、東野の自宅とは、方向違いだ。
 しかし、そこは、殺人現場となったモーテル『菊水』には近かった。
 明美は、「アーさん」と「イーさん」に拉致されたわけであり、東野は犯行に、一役も二役も買っていたことになる。明美が「イーさん」の車に乗り込んだのは、飽くまでも、東野という常連客の誘いであったからだ。
「アーさん」と「イーさん」が東野と親しかったからこそ、明美は誘いに応じたのだ。陥穽は、親しげな談笑にあった。
 実は、「アーさん」と「イーさん」が、『ラムゼ』にとって一見の客であったように、東野もまた、その二人とはその夜が初対面だったのである。
 東野は、その二人がどこのだれであるのか、全く知らなかった。
『あの二人とは、元町のバーで一緒になったのですよ。はい、西之橋近くの、エンゼルというバーでした』
 と、東野は菊名署の捜査本部で、こたえている。
 東野は、酒好きだった。勤め先に近い『エンゼル』も、なじみの一軒だった。
 東野が退社後『エンゼル』に立ち寄ると、二人がカウンターにいた。
「アーさん」はそのときすでに、酔いが回っている感じだった。「イーさん」の方はムードを楽しむように、ホステスと談笑していた。
 東野が、先客と並んでカウンターに腰を下ろしたのは、連れがいなかったためだ。
 双方は、隣り合って水割りを飲んでいるうちに、何となくことばを交わすようになった。酒飲みの常、と言えようか。
 酔いが進んだとき、
『どこか河岸をかえませんか』
『それなら、ぼくのボトルが入っているスナックがある』
 ということになった。
 こうして、「イーさん」が運転する乗用車で、元町から弘明寺へ移動。『ラムゼ』に現れたときには、まるで旧知の仲であるかのように、談笑していたわけだ。
「なるほど。車に乗せられたホステスにしてみれば、そいつは、一つの盲点だな」
「前後の状況から判断して、明美という女を狙っての、計画的な拉致《らち》事件ではありません。だが、偶発的な犯行かというと、そうでもないのですね」
 二人連れが、ともあれ、女性を連れ出すことに的を絞っていたのは間違いない、と、捜査本部も断定している。
 泥酔した東野を途中で降ろしたことと、モーテル『菊水』へ入るまでの時間経過に無駄のないことが、断定の根拠となっている。
 しかも『菊水』は、新横浜駅近くとはいえ、ラブホテルが立ち並ぶ西側一帯からは外れていたのだ。『菊水』はビルではなかった。乗用車ごと各部屋へ入れる、平屋作りのモーテルだった。
 従って、男二人、女一人の組み合わせであっても、ゲートインのとき、男の一人が身を伏せていれば、従業員に怪しまれることなく、密室に入ることができる。
 異常、というか、納得がいかないのは、女に犯された形跡がないことだった。
 明美は確かに、全裸の絞殺死体で発見された。
 凶器はモーテル室内に遺留されていなかったが、それはズボンのベルトであろうと推定された。凶行後、男がベルトを締め直して立ち去れば、凶器は残らないわけだ。
 それはいいが、男二人で女を連れ込みながら、交渉の跡がないとは、どういうことなのか。
『明美は、モーテルへ入る前に殺害されていたのではないか』
 捜査員の中には、そうした意見を述べる刑事もいた。
 女性が黙って、閉ざされた場所へ連れ込まれるだろうか。世間知らずの少女なら、恐怖に怯えて声が出ないということも、考えられよう。
 だが、明美は三十一歳である。夜の世界で生きている女性なのだ。モーテルの従業員に向かって、いくらでも救いを求めることができたはずだ。
 助けを求めなかったのは、すでに、車内で息絶えていたからではないか、と、その刑事は言った。
 それはそれで、一理ある見方だ。しかし、それでは、二人の男は、生ある女体ではなく、死者をモーテルへ連れ込んだというのか。
 捜査員の中でも、意見の分かれるところだった。
 いずれにしても、明美が、絞殺されてから衣服を剥《は》がされたことだけは、はっきりしている。それは、ベッド脇に投げ捨てられたワンピースとか、下着類の散乱をチェックすれば、一目瞭然だった。
「確かこの事件《やま》だろ、殺した女を裸にして、桜の造花をちぎって、死体に振り撒いたというのは」
 と、支局長は、谷田を見た。「確か」と前置きしたのは、「造花」はオフレコで、各社とも、記事にはしていなかったためである。支局長は、概要の報告は受けているものの、詳しい経緯を知らなかった。
「どういう神経をしているんだ。二人の長髪の男が、二人がかりで、死体に造花を振り撒いたのかね」
「花を散らせたイミテーションの枯枝が、十何本も、女の頸部に置いてあったそうです。枯枝からは、犯人のものと思われる真新しい指紋が検出されています。指紋は二種類ですから、問題の二人が、二人そろってその場にいたことは間違いありません」
「男が強引に女を誘うというと、たとえば身代金要求といった、背景を持つ場合もあるだろう。しかしこれは、セックス以外の目的は考えられないね」
「絞殺は、明美の激しい抵抗が導き出したもので、二人の男にとっては予想外のアクシデントだった」
「そういうことになるだろうね。分からないのは、死者を弄ぶ神経だ」
「輪姦は例のないことではないが、この二人は、やはり異常性格者なのですかね。ええ、菊名署の捜査本部でも、当然、その点は問題になりました」
 言ってみれば、通り魔的なこの事件は、ほとんど手がかりを残していない。
 モーテル『菊水』で検出された二人の指紋は、『ラムゼ』のボックスシートに残っていた指紋と一致し、それが「アーさん」と「イーさん」のものであることは分かったが、指紋には、前科、前歴がなかった。
「イーさん」の乗用車にしても、『ラムゼ』のママと若いホステスは車種に詳しくなかったし、東野の方は元町の『エンゼル』を出るときから深酔いしていたので、ただ白いボディーだったというだけで、型もナンバーも全く記憶していない。
 その点は、モーテルもいい加減なものだった。もっとも、こちらは、客を注視しないことをサービスと心得ている面があって、ゲートの窓口も、できるだけ小さくできている。
『クラウンの4ドア、ロイヤルサルーンだったかなあ』
 と、『菊水』の従業員はこたえたが、それは、刑事が、ホワイトの車体というヒントを与えたからであって、確かな裏付けを持つ証言ではなかった。当夜、『菊水』には、十七台の乗用車が入っていたのである。
 一泊の料金を支払った客が、夜の明けやらぬうちに車を戻しても、朝まではチェックしないシステムだった。
 全裸の絞殺死体が発見されたのは、朝、九時が過ぎて、清掃係が部屋に入ったときである。
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