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大阪経由17時10分の死者38

时间: 2019-04-25    进入日语论坛
核心提示:「大森課長は、興信所に何か調べられていたようです」「たとえば、女性関係といったような内容《こと》ですか」「そうだと思いま
(单词翻译:双击或拖选)
「大森課長は、興信所に何か調べられていたようです」
「たとえば、女性関係といったような内容《こと》ですか」
「そうだと思います。大森課長が、社内で個人的に親しくしている人はだれか、と質問されました」
「あなたにそれを質問してきた人間が、正式に興信所と名乗ったのですか」
「はい。おとなしい話し方で、感じのいい男性でした。年齢は、三十前だったと思います」
 と、『泰山』の女子社員が説明する風貌は、浦上と谷田に、波木和彦を連想させた。
 女子社員は、殺された大森の、直属の部下だった。
 最初、一階の応接間で取材に応じてくれたのは、大森の上司に当たる雑誌部長だった。高い天井で、壁に静物画のかかっている応接間だった。
 一通り話が終えたところで、
『そうですか、捜査本部でお聞きになりませんでしたか。そのことは、刑事さんが見える前に、我社《うち》の方から山下署へ通報したのですが』
 と、雑誌部長は言った。
 部長は会議を控えて、多忙だった。その部長に呼ばれて、部長と入れ違いに、一階応接間へやってきてくれたのが、第二企画課の女子社員である。
 童顔だが、はきはきとした口の利き方で、
「あれは、二月中旬でした」
 と、女子社員は興信所と名乗る男に、声をかけられたときのことを言った。
 男は、昼食時の、社員の外出を狙って接近してきたのだが、別の女子社員に、
『雑誌部第二企画課の方はどなたでしょうか』
 と、尋ねていることが、後で分かった。聞き込む相手を、大森の部下に絞っていたわけだ。
「男は名刺を出さなかったのですか」
「刑事さんみたいな手帳を、ちらっと見せました」
 女子社員は、それを先方の身分証明書と受けとめたらしい。
 舗道の下を歩きながらの、慌ただしい質問ではあったし、そうした経験は初めてなので、女子社員は、疑念を抱く余裕もなく、相手のペースに乗せられてしまったようだ。
「それで、大森さんのことを、どのように話したのですか」
「興信所の期待にはこたえられませんでした。だって、大森課長は、女性関係などとんでもないことで、男性社員とも個人的に親しくしている人はいませんでしたもの。お仕事が終えると、いつも一人で、さっと会社を出て行かれました」
 と、女子社員は言った。それは、浦上と谷田が承知している大森の一面を、敷衍《ふえん》する説明だった。
 大森は、とかく、単独行動を好んでいたらしいのである。
「その男から質問されたのは、あなただけですか」
「はい、他には聞いていません」
「では、その男が、直接、大森課長に接近した気配はありませんか」
「あったと思います」
「あった?」
 谷田の横でメモをとっていた浦上が顔を上げると、
「あたし、そのあとで二回、その男の人を見かけました」
 と、女子社員はこたえた。
 二回とも退社時であり、男は明らかに、大森を待ち伏せていたというのである。
『泰山』の本社ビルは、東映会館近くにあるのだが、男は銀座教会横の舗道にたたずんでいた。
 そして、本社ビルから出てきた大森の後を、そっと尾行《つけ》たという。
「二回とも、男は、大森課長を尾行したのですね」
 浦上は口元をとがらせた。
 女子社員の、たまたま目撃したのが二回ということは、尾行は、実はもっと多く繰り返されていたかもしれない。
 女子社員は、尾行がどういう形をとったのか、そこまでは確認していない。帰宅方向が違っていたためである。
 三鷹へ帰る大森は、東京駅乗り換えなのでJRを利用するが、彼女の方は、銀座から地下鉄だった。
 しかし彼女は、尾行を二回も目撃したので、気味が悪くなり、大森にこのことを打ち明けた。すると、大森は、
『ほう、男はきみを呼び止めたのか。いや、何でもない。何でもないんだよ』
 慌てて、彼女の話を遮《さえぎ》った。彼女がどういう質問を受け、どうこたえたのか、それを詳しく尋ねるのが、普通だろう。
 それなのに大森は、その男の存在自体を否定するかのように、彼女の報告を無視しようとしたというのである。
「大森課長が刺殺されたあとで、あなたは、そのことも、山下署の捜査本部に告げましたか」
「はい、刑事さんが会社へ見えたときに話しました」
「ところで」
 と、谷田が口調を改めた。
「大森課長は、桜に特別な関心を寄せていたというようなことは、ありませんか」
「桜、ですか」
 女子社員は、自問自答するようにつぶやいてから、大きくうなずいた。
 大森は、確かに桜の花が好きだったというのである。
 桜が嫌いな日本人はいないだろう。大森はどのように、桜が好きだったのか。
「桜の、ぱっと明るい感じがいいと言ってました」
「明るい感じ?」
「課長は文学好きで、どちらかといえば、内向的なところがありました。それで逆に明るい彩りに惹かれていたのかもしれません」
 と、女子社員は自分の考えを言った。
 しかし、桜の季節は短い。大森は課長机の、透明ガラス板の下に、満開の桜を写したカラー写真を挟んでいたという。しかも、時折、桜の写真を取り替えていたという。
「ほう、そりゃまた、相当なものですね」
 と、谷田は言ったが、大森の打ち込みようは、写真にとどまらなかった。
 昨年辺りからは、造花を、一輪ざしのように、小さい花びんに入れて、課長専用の棚に置いていたというのである。
「造花ですって?」
 浦上と谷田は、思わず顔を見合わせていた。
 モーテル『菊水』に遺留されていた、桜の造花《イミテーシヨン》を説明したのは谷田だった。
 造花自体は新聞発表を伏せてあるので、この女子社員が、仮に二月の全裸絞殺事件に関心を持っていたとしても、殺人と造花との関連は知らないはずだった。
 谷田が説明したのは、(ちぎられた花片が死者に振り撒かれていたことではなく、モーテルから発見された)本物そっくりな造花と、死者の頸部に置かれた枝、すなわち、造花を咲かせていた枝の形である。
「あら、ご存じでしたの?」
 女子社員は、そんな言い方で、谷田が説明する造花を肯定した。
 まさに、殺人現場に遺留されていたのと全く同じ形の造花が、課長専用棚を飾っていたことになる。
 桜の造花は、婦人雑誌のグラビア用に取りそろえられたものだった。
 撮影が完了して不要になった造花を、ごそっと大森課長がもらい受けたのだという。
「大森課長って、文学青年的な面が尾を引いているというか、変に子供っぽいところがありました」
 と、女子社員は言った。
 女子社員は、もちろん、谷田と浦上の質問の真意に気付いていない。彼女は肯定的な、純粋といったような意味で、子供っぽいということばを使った。
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