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大阪経由17時10分の死者40

时间: 2019-04-25    进入日语论坛
核心提示: 浦上と谷田は、曇り空の下を歩いて、品川駅へ戻った。 駅前の左手には小さいレストランとか酒場、喫茶店などが軒を接している
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 浦上と谷田は、曇り空の下を歩いて、品川駅へ戻った。
 駅前の左手には小さいレストランとか酒場、喫茶店などが軒を接している。喫茶店が、モーニングサービス中だった。
 喫茶店には、客が一人しかいなかった。
「尾行か」
 谷田は先に立って喫茶店に入り、コーヒーを注文してから、浦上に話しかけた。
「和彦は、大森を尾行したことで、大森の秘密を知ったのに違いない」
「秘密?」
「うん、秘密と呼んでいいだろうな。大森は、毎晩、家に帰るのが遅かった。毎日残業していたわけではあるまい」
「そりゃ、そうでしょう」
「退社から帰宅するまでの間、大森はどこで何をしていたのか」
「アルコール好きで、孤独癖が強かったようだから、独り、酒場で飲んでいたのではありませんか」
「東京から横浜まで遠出して、変装して酒を飲んでいたのかね」
「和彦は大森を尾行することで、大森の隠された一面を知った、と、先輩はそう見るのですか」
「そう考えるのが自然じゃないか。そして、その秘密の時間といったものを共有していたのが、寺沢だったとしたら、どうなる?」
「和彦は、大森を尾行することで、労せずして、寺沢をも割り出したことになりますか。でも、アーさんが大森であると決めつけることは容易でも、和彦は、どうやってイーさんが寺沢であることの確証をつかんだのでしょう? 白い乗用車というだけでは弱いでしょう」
「桜じゃないかな」
「桜?」
「大森は�桜�から文庫本を送り付けられて顔色をかえた。寺沢も、犯人の言いなりに、呼び出しに応じている。一流企業の課長と部長は、和彦の威しに、敏感に反応してしまったというわけだろう」
 和彦は、最初は電話をかけたのかもしれない。
 電話で、いきなりモーテル『菊水』と、桜の造花と、前髪乱したウイッグを切り出されたら、どうなるか。
『このままで済むと思っているのか! おまえも同じように絞め殺して、桜の花片を振り撒いてやろうか』
 和彦は押し殺した声で、そうささやいたかもしれぬ。姉思いの実弟の口調には、どうしようもない憎悪と怒りが、にじみ出ていただろう。
 理不尽に肉親を奪われた男の、凄まじい迫力を前にして、
『何を言いだすのかね。全く身に覚えのないことだ』
 と、開き直ることができるかどうか。
「大森も寺沢も、それほど図太い神経の持ち主ではないと思うよ」
 と、谷田は言った。
「和彦は、当然文庫本をちらつかせたことだろう。唯一の物証は、一冊の文庫本だけにしろ、大森と寺沢にしてみれば、他にも何か握られているのではないかと不安になってくる」
「怯えた応答が、和彦に確証を与えたことになりますか」
「違うか」
 しかしなあ、と、谷田は顔を振った。
「大森も寺沢も殺されてしまったいま、オレたちに、尾行という手段は残されていない」
「それにしても、大森と寺沢は、何ゆえ明美を殺してしまったのでしょう」
「酔った勢いで、ホステスを口説くつもりはあっても、殺す気はなかっただろう」
「二月の事件《やま》は、殺された側だけでなく、殺した側にとっても、予想もしないアクシデントだった」
「うん、そう解釈するのが、常識だとは思うけどな」
「だが、殺害方法は絞殺ですよ。崖から足でも滑らせたというのならともかく、過失で絞殺ということはないでしょう。しかも、殺したあとで全裸にしたり、造花を撒き散らしたりしている。これはどういう意味を持つのですか」
「それが分からない。分からないが、その辺りが、大森と寺沢が共有する、隠れた時間と関係してくるのではないかね」
 コーヒーがきた。モーニングサービスのトーストと、ゆで卵がついている。
 浦上と谷田は無表情にコーヒーを飲み、トーストを食べた。
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