谷田は、浦上の報告を聞くと、浦上以上に顔色を変えた。
「あの二人、兄弟だったというのか」
仲佐に面会する意気込みがかわったぞ、という目の動きになっている。
昨夜、『毎朝日報』横浜支局で浦上が書き出した四つの疑問は、仲佐のアリバイ問題を除いて、おおむね氷解したわけである。
「確かに、和彦の女房は、それと知らされないままに、兄弟の犯行計画に一役買わされているな」
と、谷田はうなずいた。
和彦の妻は善意の第三者だ。善意の第三者の主張なら、アリバイ証言も重みを持ってくる。
しかし、善意の第三者には計算が働いていない。それだけに、浦上の電話質問にこたえたような、思わぬ�事実�とか人間関係を、ごく自然に、吐露してしまう結果にもなるのだろう。
「そう、いくら完全犯罪を意図しても、役、振り当てられた登場人物が、そうそう、演出者の思い通りに動いてくれるものじゃない」
「何か嫌な気持ちですが、こうなって見ると、殺人《ころし》の動機が分からないでもありませんね」
「実弟二人の怒りは、理解できる。だが、憎悪が、こんな具合に形を整えたのは、やはり異常だよ」
「そうでしょうか」
浦上は、キャスターをくわえて、ゆっくりと火をつけた。一瞬、浦上の中のだれにも知られない暗部に、何かが照応したようでもあった。
谷田もピース・ライトを吹かした。
それぞれのたばこが灰になったところで、二人は小さい喫茶店を出た。
二人は、無言のまま、山手線に乗った。