二手、というよりも、正確には三つの対象に向かって、刑事たちはひそかに散って行ったのである。目的地は、いずれも東京都だった。
中山部長刑事と堀刑事は、地下鉄を乗り継いで、港区麻布台の『ASプロダクション』を訪れていた。
横浜からプロダクションに電話を入れると、仲佐は『毎朝日報』に告げたように、テレビ局へ直行していることが分かった。新宿のテレビ局であり、仕事は、秋から始まる昼の帯ドラマのロケハンだった。
テレビ局のスタッフと都内を回っているというのだが、車で転々としているので、連絡が取れない。
しかし、ロケハンを終了次第、『ASプロダクション』に上がってくると聞いて、中山部長刑事と堀刑事は、横浜から飛んできた。
現時点では任意に同行を求めることになるが、
『つべこべ言ったら、首に縄かけても構わず引っ張ってこい』
上司からは、そうした命令が出ている。捜査本部に出頭すれば、必然的に、緊急逮捕ということになろう。
芸能プロダクションは、人の出入りが激しい。派手な服装が多く、テレビでよく見るタレントが、ばかげた冗談を言いながら、通りかかったりした。
中山部長刑事と堀刑事は、慌ただしい大部屋の片隅にいた。ドアの横に、小さいテーブルとソファがあった。
応接室を避け、大部屋で待たせてもらうことにしたのは、仲佐が上がってきたときの、万一の見逃しに備えたためである。
待たされる時間は長かった。
仲佐は容易に姿を見せない。ロケハン先からの、連絡の電話もかかってこなかった。
中山部長刑事は捜査本部に報告電話を入れた。捜査本部では、念のため、仲佐の自宅マンションへ別の刑事を張り込ませることにした。