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湖畔の殺人1-6

时间: 2019-04-26    进入日语论坛
核心提示:   6 翌日も朝から蒸し暑かった。 先に目覚めた千代は、松岡のズボンに付着する赤土を見て、「あら? ゆうべは気付かなか
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 翌日も朝から蒸し暑かった。
 先に目覚めた千代は、松岡のズボンに付着する赤土を見て、
「あら? ゆうべは気付かなかったけど、あんた、どこを歩いてきたのよ」
 ブラシをかけようとした。
「余計なことをするな」
 慌てて寝床から這い出した松岡は、千代の手を制した。
「仕事着なんだ。ブラシなどかける必要はない」
「おかしいわよ。このズボンを穿いて、横須賀まで戻るのでしょ。電車の中で変に見られるわ」
「そんなことより、信用金庫の手続きは大丈夫だろうな。今日中に、済ませてくれるんだろうな」
 つい、本音が出た。
 いま、考えなければならないのは、それだけだ。
 昨夜の酔いが遠のいて、松岡は、また落ち着きを失いかけている。
 松岡は、千代の手からズボンをひったくるようにした。
 その一瞬だった。
 美知子の赤いサイフが、ズボンのポケットから滑り落ちた。
「あ、これはね」
 松岡が乾いた声を発するよりも速く、千代は赤いサイフを拾い上げていた。
「これ、美知子のサイフでしょ」
 母親は敏感だ。
「あんた、何か隠してるわね」
 千代が、思わずそう口走っていたのは当然である。
 ズボンをひったくるときの、松岡の慌てかたも不自然だったし、何よりも、そのサイフが「発覚」したことで、松岡の顔面が蒼白に変わっている。
 しかし、松岡の隠蔽しているのが、我が子の死体だなんて、千代に考えられるはずもなかった。
 それが表面に出たのは、気まずい空気の中で、朝食を始めたときである。
 横須賀から、二人の刑事が訪ねてきた。
 付近の農夫によって、早朝、沼に浮かぶ美知子の全裸死体が発見され、別の農夫が、松岡の捨てた美知子の所持品を、雑木林の中から見つけ出したのだった。
 正確には農夫の連れていた犬が、美知子の「遺品」をくわえてきた。
 学生証明書があったために、死者の身元は簡単に割れた。
「美知子が?」
 泣きかけて急にやめたような、こわばった表情を刑事に見せた千代は、その顔を、そのまま松岡に向けた。
 松岡は気の弱い男だ。
 千代のまなざしに克てるわけはなかった。
「ともかく、遺体を確認していただきます」
 と、刑事はつづけた。
 刑事は、一緒に朝食をとる松岡と千代を夫婦、つまり、美知子の両親と思ったらしいが、そうでないことをすぐに察したようである。
 刑事は松岡と千代の間に、一歩踏み込んできた。
「雑木林を捜索した結果、遺品は大体発見されました。しかし、サイフが見当たらないのです」
 と、説明する刑事の声を、はるかに遠いもののように、松岡は耳にしていた。
 
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