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湖畔の殺人4-1

时间: 2019-04-26    进入日语论坛
核心提示:   1 八月下旬にしては、しのぎ易《やす》い夜だった。 夕方から、風が出たせいだろう。 和田紀夫は酔い過ぎていた。 会
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 八月下旬にしては、しのぎ易《やす》い夜だった。
 夕方から、風が出たせいだろう。
 和田紀夫は酔い過ぎていた。
 会社恒例の納涼大会が、中之島のホテルで開かれた。
 毎年、夏の終わりに開催されるパーティーは、秋の販売促進月間に向けての、決起大会の意味もあった。
 納涼会は午後三時半からだったが、その後、二次会、三次会と誘われるままに、キタのバーやクラブを飲み歩いた。
 和田は四十二歳。
 大証二部上場の『光洋物産』で、第二営業課長を務めている。
 年に一度のことなので、部下たちの誘いを無下《むげ》に断わるわけにもいかない。
「課長、これから仕上げにもう一軒、道頓堀へ行きましょう」
 と、粘る部下たちを振り切って、大阪駅に戻ったのは、午後十時を回る頃だった。
 和田の家は西宮である。
 阪急神戸本線を利用する毎日だった。
 阪急梅田駅へ向かうために、和田はJR大阪駅の広い構内を横切った。
 途中、電話コーナーを見つけると、人込みで足をとめた。
 遅くなったときは、電車に乗る前に自宅へ電話を入れるのが、いつもの習慣だった。
「ああ、ぼくだ。これから帰る。若い連中のペースに巻き込まれてね。すっかり酔わされてしまったよ」
 カード電話の前に立つ足元は、ふらふらしている。
 夜がふけても、真夏の駅は、人の動きが減らなかった。
 和田は受話器を置くと、マイルドセブンをくわえた。
 若い女性が、ふっと和田の前に立ちはだかったのはそのときである。
 瞳の大きい女性で、笑みを浮かべた口元に特徴があった。
「あら?」
 笑みを浮かべた女性は、いかにも親しげな表情を見せた。
 大きな赤いカーネーションがプリントされた、女の白いTシャツを、和田の酔った目が捕らえた。
 記憶がなかった。
 知らない女だ。
 人違いをされているのに決まっている。
 しかし和田は、ライターの火をつけながら、女を見返していた。
 女は、オフホワイトのジョッパーズが似合う若さだった。
 肌も白いし、唇の形が何とも言えずセクシーだった。
(OLだろうか)
 口の利き方は水商売の女を思わせるが、ほとんど化粧はしていないし、服装は、むしろ地味と言っていい。
「どなたでしたかね」
 マイルドセブンの煙を吐きながら、和田が思わずそう問い返したのは、酔い過ぎていたためである。
 普通の状態であったなら、たとえ、相手がどのように美貌の女性であろうとも、和田はことばを返すような性格ではなかった。
 和田は、公私ともに、徹底したマジメ人間で通っている。
 順調に出世コースを歩んで、課長のポストも得たし、定年までローンが残っているとはいえ、マイホームも手に入れた。
 西宮市の自宅には、パートで働く妻と、小学校へ通う二人の男の子が待っている。
 和田は仕事に熱中し、そして、家庭を大切にする平均的なサラリーマンであった。
 そうした和田の日常を承知しているのかどうか、
「今夜、お会いするのは、これで三度目ですわね」
 若い女は、つぶらな瞳を、じっと和田に向けてきた。
 そう言われても、やはり、和田には見覚えがない。
 だが、その一言で、彼女が人違いしているのでないことだけは分かった。
「どこかの、バーかスナックで、ご一緒したのですかな」
 と、和田は言った。
 和田は数人の部下たちと飲み歩いた、堂山町や梅田など、キタのバーを思い返そうとした。
 花金《はなきん》とあって、どの店も込んでいたし、自分たちの話に熱中していたので、周囲にだれがいたか、細《こま》かいことは何ひとつ覚えていない。
 カラオケにしてもそうだ。
 マイクを握った記憶はあるが、何を歌ったのか、定かではなかった。
 要するに、和田は、それだけ深酔いしていたのである。
「課長さん、ずいぶん酔っていらっしゃるわ」
 若い女は、新しい笑みを浮かべた。
「大丈夫ですか。足がふらふらしているわ、課長さん」
「課長だって?」
「皆さんが、そう呼んでいたじゃありませんか」
 女は、バーで同席したことを、暗示する口調になった。
 しかし、この若い女性は、酒を飲む場所へだれと出かけたのか。
 和田たちが繰り込んだバーやクラブは、若い女性が一人で立ち寄るような店ではない。
 いま、彼女に連れのいる気配はないし、こんな遅い時間に、だれかと待ち合わせをしている感じでもなかった。
「ねえ課長さん、ご一緒にお食事でもしません?」
「食事?」
 和田は、一瞬、聞き違いではないかと思った。
「こんな時間に食事をするというのかい」
 複雑な気持ちで問いかけると、
「どこかへ連れて行っていただきたいの」
 女は、和田を見詰めたままで言った。
 とても、そんなことを切り出してくる女性のようには見えない。
 この女も酔っているのだろうか。
 だが、聞き違いではなかったのである。
 若い女は、一歩、和田に近付いた。
「あたし、今夜はだれかとお話がしたくて仕様がないんですの」
「そう言っても、きみ」
 和田は、口先では常識的なことばを返したものの、このときすでに、内面に迷いが生じていたのだった。
 マジメなサラリーマンとはいえ、和田も四十二歳の男であった。
 もちろん、酔いがいつも以上に深まっていたことも、理性を不安定にする要因となっている。
 逡巡に見舞われた和田に対して、決断を促すように、女はつづけた。
「あたし、天王寺に、遅くまでやっているお店を知っているの。課長さん、一緒に行ってくださるわね」
「そうだねえ。これも、何かの縁かもしれないな」
 和田の心は動き始めていた。
 しかし、電話コーナーを離れるとき、和田は、大阪駅構内の人込みに、さり気なく視線を投げるのを忘れなかった。
 名の通った会社に籍を置く、商社マンとしての習性が、そうさせるのかもしれない。
 見知った顔はなかった。
 いや、仮に知人がいたとしても、それを見定めることもできないほどに、和田は酔っていた。
 八月二十五日のことである。
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