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湖畔の殺人4-4

时间: 2019-04-26    进入日语论坛
核心提示:   4 賃貸マンションは、新今宮の近くだった。 商店街の裏側に位置する五階建てで、昭子の借りている1DKは二階の、階段
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 賃貸マンションは、新今宮の近くだった。
 商店街の裏側に位置する五階建てで、昭子の借りている1DKは二階の、階段を上がってすぐの部屋だった。
 手前がダイニング、奥が六畳間。
 六畳間にはベビーだんすと座り机があり、机の上に小さい三面鏡が載っている。
 室内には、男の匂いが、まったく感じられなかった。
 それで、それが当然なのであろうが、和田はなぜかほっとした。
「いい部屋だね」
 意味もなく、そんなことを言って、背広を脱いだ。
 昭子はクーラーをつけた。
 和田は『シルバーレイク』で、さらに酔いを深めたせいか、空想の世界にいるような気もした。
 見知らぬ若い美女に声をかけられて、ことが、こんな具合に進展するなんて、和田の日常生活からは、およそかけ離れている。
(いいじゃないか。一夜のアバンチュールなんだ)
 と、和田は酔いの中で繰り返した。
 そして、それは、まったく夢の中のできごとのように、運ばれていったのである。
 マジメ一方の半生を送ってきた和田のような男にとって、妻以外の女性の中に身を沈めるのは、初めての経験だった。
「思ってたとおりだわ。課長さんて、見かけによらずスゴイのね」
 昭子は床の中で、大胆に、白い裸身をさらけだした。
 見かけによらないのは、その昭子のほうである。
 大阪駅の構内で、和田の前に立ちふさがって、ほほえみかけてきたときの昭子は、男女のことなどろくに知らないような表情ではなかったか。
 二人だけの時間が過ぎていくたびに、昭子は、その本能をあらわにしてくる。
「嫌よ、そんなに強くしちゃ嫌。ねえ課長さん、こうするのよ」
 昭子は自ら注文をつけ、そして、激しい反応を示した。
 白い肌は異様にほてり、熱を帯びるたびに、体全体が引き締まっていく。
「あんた、素晴しい女性だ」
 和田は意味もなく、というよりも、他にことばも浮かばないままに、一つことをつぶやきつづけた。
 商店街の裏側とは思えないほどに、周囲は静かだった。
 八月の夜とはいえ、人びとは、眠りにつく時間である。
 隣室でかけているのか、ラジオの深夜放送の音だけが、小さく聞こえている。
 昭子は和田を離そうとしなかった。
 和田が全身に力を込めると、背中に爪を立ててくる。
(これが、いまの若い女性なのか)
 クーラーはつけたはずなのに、和田の体は汗ばんできた。
 妻からは決して得ることのできない反応の激しさが、じわじわと、和田を絶頂感に導いていく。
 
 だが、昭子はこのとき、決して、満たされていたわけではなかったのである。
 男の胸の中での吐息は、六分通りが演技だった。
(男って、だれでもが、皆、こういうものなのかしら)
 と、考える、意外な冷静さが、脳裏の一隅にあった。
(いちいち、あたしのほうから注文をつけなければならないなんて、気乗りがしやしないわ)
 昭子も、実は、レズの世界の魅力を知ってしまった一人なのである。
 昭子に秘戯を教えたのが、さっきまで二人を尾行していた久乃に他ならなかった。
 昭子は和田に抱かれながら、久乃の、飽くことのない愛撫を思った。
『昭子《あき》、勘違いしちゃ駄目よ。男なんか、金を取る手段でしかないのよ』
 それが、久乃の口癖だった。
 比べてみるまでもなく、昭子もそのとおりだと思う。
 昭子は、かつて一度も、異性に満たされた経験を持たなかった。
 男性を知る前に、久乃によってセックスの歓《よろこ》びを教え込まれてしまったことが、いけなかったのか。
 昭子にとって久乃は、姫路市内の高校での先輩に当たった。
 年齢が離れているので、在学中はお互いを知らなかったけれども、二人とも、ウラバンを張っていたことがある。
 前後して大阪の会社に就職し、大阪在住者で同窓会が開かれたとき、昭子と久乃は初めて顔を合わせた。
 そして、お互いのウラバンの過去を知ったことで、人一倍、親しい交際を持つようになった。
 昭子も久乃も、性格は派手なほうである。
 秘密の時間を共有するようになってからは、どこへ遊びに行くのも一緒だが、食事をするにしても、高級レストランを選ぶことが多かった。
 だが、お互いOLに過ぎない二人の給料では、そうそう派手に遊び回るわけにはいかない。
 そこで思いついたのが、金のありそうな中年男性への恐喝《ゆすり》だった。
 暗いセックスに歪《ゆが》められた日常と、ウラバンを張っていた過去が、昭子と久乃にその計画を実行させた、とも言えようか。
 昭子が翔んでるOLを装って中年男性を誘い、後から登場する久乃が、実姉と称して脅《おど》す。
 それがお定まりの、二人の手口だった。
 そして、この夜までに、すでに三回の成功を収めていた。
 回数が重なるごとに、度胸もすわってくる。
『ねえ昭子《あき》、今度は百万ぐらいゆすって、二人でグアム島へでも行ってみない?』
 久乃はさっき、梅田のバーで、カモを見付けたとばかり、昭子にささやいた。
 二人は、夏の、いわゆるバカンスの大移動期は避けて、九月に入ってから年休を取ろうと話し合ってきた。
 そうした矢先、梅田のバーで、数人の部下に囲まれて、いい気になってしゃべりまくっている和田を、逸早く目にとめたのが、久乃だった。
『あのオジン、おとなしそうだし、だいぶ酔っている。ああいうのをモノにしなければ』
 と、久乃は言った。
 それから二人の尾行が始まり、大阪駅構内の電話コーナーで、昭子がうまい具合に食らいついてからは、尾行者が久乃一人に変わった、というわけである。
 久乃は間もなく、昭子が住む1DKへやってくる手筈だった。
 久乃が借りているマンションは阿倍野だが、昭子のマンションへは常に出入りしているので、久乃も合かぎを持っている。
 男と昭子が全裸で抱き合っているときに、唐突に訪ねてくるほうが効果的だ。
 だから、別な見方をすれば、昭子はそれまでの時間を保つために、演技を交えて、必死に、和田の愛撫を求めていたとも言えるのである。
 とてもではないが、夢心地なんてものではない。
 だが、何も知らない和田は、完全にそのペースにはまり込み、若い女体の匂いに溺れ切っていた。
 ノックもなしに、ドアが開けられたのは、それから十五分とは経《た》たないうちである。
 
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