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湖畔の殺人5-3

时间: 2019-04-26    进入日语论坛
核心提示:   3 葉子が、寝床で深夜放送を楽しむのは、学生時代からの習慣だった。 葉子は四人きょうだいの三女。 生家は岐阜県|瑞
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 葉子が、寝床で深夜放送を楽しむのは、学生時代からの習慣だった。
 葉子は四人きょうだいの三女。
 生家は岐阜県|瑞浪《みずなみ》市で陶磁器店を営んでおり、葉子は高校を卒業すると名古屋に出て、短大に通った。
 そのまま名古屋で就職し、アパートでの一人暮らしをつづけているのである。
 しかし、学生時代と違って、深夜放送を楽しむのは、休日前夜に限定されていた。
 葉子には、まだ恋人がいなかったけれども、瑞浪の両親は縁談を進めており、葉子は見合いのために、近く、生家を訪れることになっている。
(でも、もう少し、シングルライフをエンジョイしたいナ)
 葉子は結婚にあこがれる反面、そんなふうにも考える。
 見合いもいいが、一方には恋愛結婚への願望があったし、木造アパートを脱出して、おしゃれなマンションに住みたい夢があった。
 葉子は、親しいボーイフレンドこそ持たないけれど、それなりに充実した青春を過ごしていたと言えよう。
 青春の花を咲かせるのは、これからである。
 そうした葉子にとって、いま、黒い魔手がすぐそこに迫っているなんて、想像できるわけもなかった。
 文字どおり夢見心地の中で、葉子は、ラジオから流れる音楽を耳にしていた。
 そのまま、眠ってしまうこともあった。
 このときも、葉子は、半ば眠りに引きずり込まれていた。
 
 暗い部屋の中の気配を、男は十分余りも窺っていたであろうか。
 男の影は、いつの間にか、窓わくにぴったりと吸いついていた。
 蒸し暑さのためであろう、アルミサッシの窓の片側が、一センチほど開いている。
(お誂《あつら》え向きじゃないか)
 男は呼吸を整える。
 あとは、飛び込んで行くタイミングを計るだけだ。
 たとえ、相手が目を覚ましていたとしても、一気に押さえ込んでしまえば、こっちのものだ。
(この女、まだ男を知らないはずだぜ。オレの目に狂いはない)
 影のつぶやきは、陰湿だった。
 町で葉子を見かけ、それから慎重な尾行をつづけてきた男は、改めて、葉子のすらりとした後ろ姿を思い浮かべた。
 葉子の部屋は、四畳半に台所がついているだけの、狭いものだった。
 こうした場合は、そのほとんどが、窓際に床をのべることを、男はこれまでの経験で承知している。
(この窓ガラスと、カーテンの向こう側に、あの女が寝ている)
 と、そんなふうにささやく声が、男の内面にあった。
 すると、不安定な足場の上にいるにもかかわらず、男の肉体の一隅に、変化が生じてくる。
 いつもそうだった。
 そういう男であった。
「よし!」
 男は、自分に発破《はつぱ》をかけるようにつぶやき、窓の隙間《すきま》に手を差し込んだ。
 静かにガラス戸を引いた。
 かすかにレースのカーテンが揺れ、部屋の中の空気が揺れた。
 葉子は気付かない。
 水玉もようのネグリジェを着た葉子は、眠りに落ちていきながら、ラジカセから低く流れる音楽だけを追っている。
 葉子が微妙な異変に気付いたのは、男が音もなく部屋の中に入り込み、窓ガラスを閉め直したときである。
 葉子が目覚めていないことを確認したためか、それとも、スムーズな忍び込みに成功したせいか、窓を閉め直すときの影は、動きが、やや乱暴になっていた。
 それにしても、男の影がすぐ頭上に迫っているなんて、葉子の想像を超えている。
 千種区内で、連続して発生した変質者の事件のことは耳にしているが、それは、このときの葉子の脳裏にはなかった。
 異変に気付いたと言っても、夢うつつのことであり、葉子は、ただ寝返りを打っただけである。
 葉子は蒸し暑さのために、毛布をけ飛ばす格好になり、ネグリジェの下から白い肌がのぞいた。
 そう、顔形までは見極められないけれども、闇に慣れた目には、その白い肌の動きがはっきりと分かった。
(きれいな体をしてるぜ)
 と、そんなつぶやきが、再び男の内面を流れたが、それもまた、意味を持つことばではなかった。
 男の息遣いが、知らず知らずのうちに高ぶっている。
 男は、そうした自分を隠そうとしなかった。
 土足のまま上がり込んだ男は、スニーカーの上から、パジャマのパンツだけを取った。
 そして、葉子の寝息を窺いながら、脱いだパンツを、彼女の顔の上に落とした。
「あ!」
 低いが、しかし鋭い声が、葉子の口から漏れた。
 葉子は本能的に上半身を起こした。
 しかし、葉子の次の叫びは、声にならなかった。
 男の右手が、逸早《いちはや》く葉子の口に当てられ、たったいま脱ぎ捨てた汗臭いパジャマを、口一杯に差し込まれていたためである。
「静かにするんだ。命まで取ろうとは言わないぜ。しばらくの間、お互いに楽しもう。それだけのことなんだ」
 押し殺したような、男の声であった。
 男は一方的に口走ると、葉子の反応を見定めようとはせず、いきなりネグリジェの胸倉をつかみ、激しい往復びんたを食らわせていた。
 百の説得よりも、一つの往復びんたが、女を服従させるのに効果があることを、男は知っていた。
 この半年間の経験で身につけた、悪のテクニックであったと言うべきかもしれない。
 果たせるかな、その一撃で、葉子の抵抗の力が抜けた。
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