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湖畔の殺人5-4

时间: 2019-04-26    进入日语论坛
核心提示:   4 抵抗の方途を奪われた葉子は、両脚をそろえて、ただ、全身を固くする以外になかった。 もしも、口の中にパジャマを押
(单词翻译:双击或拖选)
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 抵抗の方途を奪われた葉子は、両脚をそろえて、ただ、全身を固くする以外になかった。
 もしも、口の中にパジャマを押し込まれていなかったとしたら、恐怖と怒りで、叫び声を上げていただろう。
「何も、そう固くなることはないさ。取って食おうというわけじゃない」
 男の口調には、余裕があった。
 何となく、相手が思いどおりになったところからくる余裕であり、葉子の怯《おび》え切っていることが、なお一層、男の欲情を広げようとする。
 男は、懸命に合わせようとする葉子の脚の間に右手を差し込み、強引にそれを開いていた。
 じっとりと、汗ばんでいる掌であった。
 そして、そのままの姿勢で葉子を横倒しにすると、首筋の辺りに、その分厚い唇を押し当てた。
 葉子は必死にもがいたけれど、ふいを衝いてきた乱入者の力に勝てるわけはなかった。
「いい匂いだな」
 男は差し込んだ手の位置を、じわじわと上部に移動させながら、考えているとおりのことを口にした。
 できるなら明かりをつけて、こんなときの女の表情を確かめたいと思った。
 しかし、そんなことをすれば、自分の顔も見られてしまう。
「おまえは、オレがだれだか知らないだろう。知らないほうがいいんだ」
 男は調子に乗ったようにつづけて、引き千切らんばかりの勢いで、ネグリジェを外しにかかった。
「おまえはオレを知らなくても、オレのほうでは、おまえをよく知っている」
 男の声が、さらに低くなる。
「おまえは中華料理が好きらしいな。会社の帰りに、地下鉄駅前の食堂に寄るのを、オレは知っている」
 もう一度、葉子の力の抜けるのが、分かった。
 一方的に、自分を知られていることほど不気味なものはない。
 もちろん、そこまで計算した上での、男の話しかけであった。
 そして、その中華料理店で、偶然この男とすれちがい、狙いをつけられたことが、葉子にとっての不幸の始まりとなったわけだが、もとより葉子が、その過程を知るはずもなかった。
 ラジカセから流れる音楽が、葉子から遠くなる。
 異性を知らない、むき出しの柔肌を、男の汚れた掌が撫《な》で回した。
 その右手は、軍手を外したが、左は、はめたままである。
「おまえも、いずれは嫁さんに行くのだろう。今夜のことは、いつまでも忘れられない、いい思い出になるぞ」
 男の口元から、そうした残酷なことばが流れたのは、どのくらいが過ぎてからであっただろうか。
 男の土足が、情容赦もなく、純白のシーツを乱しており、影の目には、どうしようもない濁りが浮かんでいる。
「ふん、それでも、おまえさえ黙っていればよ、男なんてものはバカだからな、自分の嫁さんがこんなに素晴しい思い出を持っているなんて、一生気付きはしないんだ」
 これは、半ばひとりごとのようになっていた。
 男は、葉子の豊かな乳房に、両方の掌を置いた。
 影の横顔が、どうしようもないほどの歪みを帯びてきた。
 セックスに対する欲望と、そして女性に対する憤りが、奇妙に入り交じっている横顔だった。
 だれも知るはずはなかったけれど、この複雑な感情こそが、男を犯行に駆り立てている原因にほかならなかった。
 男は、女に愛された過去を持たなかった。
 二十八歳になる今日まで、彼の中にあるのは、異性に裏切られた記憶だけだ。
 
 入野克男。
 それが、影の名前だった。
 入野克男は、二回の結婚に失敗した男であった。
 二度とも、妻の男性関係が原因で、離婚に追い込まれた。
 最初の妻は、入野が電気工事店へ出勤した留守に、化粧品のセールスマンと情を通じて、切れない仲になった。
 二度目の妻には、入野と結婚する以前からつきあってきた妻子持ちの男がいた。
 入野が不審に思って、問い詰めても、最初の妻も二度目の妻も、決定的な証拠を突きつけられるまで、知らぬ存ぜぬで、押し通そうとした。
『あなたって人は、自分の妻を、そんなに信じられないの!』
 二人とも申し合わせたようにそう叫んで、背信を、平然と隠そうとしたのである。
 問い詰める入野のほうが、逆に責められている感じでもあった。
(何てことだ、畜生! これからは、もう一生結婚なんかするものか!)
 入野は、二度目の破局を迎えた夜、べろんべろんに酔いどれた。
 元来が酒は弱いほうであり、仕事一途な、まじめな性格であったが、酔いの底に沈んでいく顔は、別人のように黒ずんでいた。
 このときを境にして、入野克男は�変身�を遂げたのだ、と言えるかもしれない。
 昼間の仕事はいままでと変わることなくつづけたが、夜が違った。
 外で食事を済ませて、夜、アパートに帰ってくると、妻がいなくなった部屋には、ただ、苛立《いらだ》ちだけがあった。
 それに、何といっても、まだ二十代の若さである。
 だれもいない部屋で酒に酔うと、別れていった妻に対する憤りと、セックスへの欲望が複雑に交じり合って、二十八歳の体内を走った。
『女か! ふん、女なんて動物と同じじゃないか!』
 入野は、焦燥を鎮めることのできない、乱れた状態のままで叫んだ。
 そして、そうした乱れが、そのまま、一連の婦女暴行事件につながった。
 五ヵ月前の、最初のそれは、二度目の離婚から、二ヵ月とは経《た》たないうちの、犯行であった。
 被害女性に共通する、小作りで色白というのは、別れていった二人の妻との、類似点にほかならなかった。
 しかし、犯罪のきっかけに、どのような理由を見出すことができようとも、それはそれである。
 すでに二十一人の若いOLを犯し、二十二人目の葉子の肌を探っている現在の入野には、女性を暴行するという、そのことだけが、目的に変わっていた。
 
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