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湖畔の殺人5-5

时间: 2019-04-26    进入日语论坛
核心提示:   5 葉子は、こうなったら、影の力のままになるより仕方がなかった。 入野の息遣いが次第に激しくなり、ラジオの音が遠く
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 葉子は、こうなったら、影の力のままになるより仕方がなかった。
 入野の息遣いが次第に激しくなり、ラジオの音が遠くなったとき、葉子の体の一隅を、強い痛みが走っていた。
 初めて経験する痛みだった。
「どうだ、いい気持ちだろう」
 葉子の苦痛の反応を楽しむかのような、入野のつぶやきが、すぐ耳元にあった。
 そこで入野は、葉子の口中に差し込んであるパジャマを取った。
「真っ暗な上によ、満足に声も聞こえないのでは、楽しみも半減するからな」
 入野は勝手なことを言った。
 いまさら、葉子が騒ぎ立てるはずもなかった。
 口からパジャマを外されても、葉子の息苦しさは変わらない。
 男の、汚れた汗のにおいを避けるようにして、葉子は半泣きの口調で言った。
「お願い。何でも言うことを聞くから、あたしを離して」
「女は、皆うそつきだ。女のことばを聞く耳など、オレは持っちゃいない」
「あんただれなの? どうしてこんなひどいことをするの?」
「それを聞いてどうなる? オレがだれだっていいじゃないか」
「あ! やめて!」
 葉子の低い叫びが、部屋の中の闇を流れた。
 入野の、軍手をしたほうの左手が、その口を封じた。
「がたがた騒ぐことはないぜ。男と女は、こうなることに決まっているんだ」
 入野はさらに葉子の肌に力を込め、葉子の中の激痛が広がっていく。
 暗闇の下の、嫌な時間は、どのくらいつづけられたであろうか。
 アパートは密集しているのに、何の物音もしない静か過ぎる夜だった。
 葉子にとっては、この上もなく長い時間であった。
 初めて知る男の体臭と、激しい痛みが、葉子の思考を奪っている。
 男に対する怒りまでが遠くなり、判然としない悲しみと焦燥だけが、葉子に残った。
「音楽を聞きながらってのも、悪いもんじゃないな」
 入野は、長い時間が過ぎて上半身を起こしたとき、すっかりいい気になっていた。
 そして、手探りで葉子のベルトを見付けると、むき出しの葉子を、そのまま後ろ手に縛り上げた。
 いつもと同じ手口だった。
「悪く思うなよ。オレが完全に遠ざかるまで、一時間ほど、そうやってじっとしていてくれればいいんだ」
 抑揚を欠いた、話し方だった。
 葉子の太股には一筋、尾を引くものがあったけれど、入野はそこに向ける注意を持たなかった。
 入野は、これまでの犯行と同じように、葉子のポシェットを引き寄せて、現金を抜き取った。
 それから、入口横の、ベビーだんすの前に立った。
「下着類は、どこの引き出しに入っているのかな」
「え?」
「今夜の記念に、何枚かもらっていこうってわけさ」
 暗闇なので確かめることは、不可能だが、入野の横顔に浮かんでいるのは、間違いなく、歪んだ表情だけだった。
 そこには、妻に裏切られた不幸な男というイメージはなかった。
 そうなのだ、犯行の出発点が何であれ、いまの入野は、�婦女暴行魔�以外の何ものでもなかった。
 葉子がためらっていると、入野は勝手に引き出しを探った。
 入野は、ブラジャーとパンティーストッキングを取り出していた。
 そして、それらをパジャマの下に巻き付けると、平然と、表のドアから、外廊下へ出て行った。
 入野はさり気なく周囲に気を配りながら階段を下りて、路地に抜けた。
 
 奇妙な充実感が、影の小柄な全身に広がっている。
 過去の二十一件同様、今夜も、黒い計画は予定どおりに完了されたのである。
 しかし、今夜の葉子は、これまでの二十一人のOLとは違っていた。
 これまでの被害者は、後ろ手に縛られたロープなどを、ほどくことのほうを優先させた。
 若い女性とすれば、それが当然かもしれない。
 半裸の恥ずかしい姿のまま救いを求めるなんて、なかなかできないことだ。
 従って、警察への届け出が遅れ、影の男の逃亡を助ける結果となってきたのだが、葉子は違った。
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