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湖畔の殺人6-4

时间: 2019-04-26    进入日语论坛
核心提示:   4「あれ、こんなところで珍しいな、佐々木さんじゃないですか」 西田は、口から出まかせを言って、二人を呼びとめた。 
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「あれ、こんなところで珍しいな、佐々木さんじゃないですか」
 西田は、口から出まかせを言って、二人を呼びとめた。
 二人のうちの、どちらを「佐々木さん」とも特定しない呼びかけだった。
 どちらでもいい。
 これで、少しでも相手が反応を示せば、それで話のきっかけはつかめるのである。
 先方が、呼びかけを無視したら深追いはしない。
 これが、終始一貫した、オオカミの手口だった。
 しかし、そんなことなど知るはずもない文江と幸子は、何気なく足をとめたのだ。
 文江も幸子も、ほっそりした美人であり、その色白な顔には、育ちのよさそうな表情が見える。
(二人一遍は初めてだが、こりゃ、文句なしだぜ!)
 西田の内面で、快哉《かいさい》を叫ぶ声があった。
 そうして、後はいつもの筋書きどおりに運ばれた。
 まず、人違いで声をかけたことをわび、どこへ帰るのかと尋ね、帰る先がどこであろうとも、
「ちょうど、ぼくも、同じ方向へ戻るところなのですよ」
 と、調子を合わせ、無理|強《じ》いをしないていどに、同乗を勧めるのである。
 手段は飽くまでも単純だが、問題は、それを切り出すときのタイミングにあった。
 車に乗せてしまえば、こっちのものだ。
 それまでは、何があろうと、一片の不審も抱かせてはならない。
「遠慮することは、ありませんよ。さ、さあどうぞ」
 と、西田は静かに言った。
 文江と幸子の家が、同じ竜野であったことも、この場合、不幸の遠因と言えるかもしれない。
 文江にしろ、幸子にしろ、一人では、見知らぬ男の車になど、決して乗りはしなかっただろう。
「でも、悪いわ」
 と、先にことばを返したのは、幸子のほうだった。
 もちろん、そうこたえたのは、乗せてもらうということを意味している。
 咄嗟《とつさ》のうちに返事の内容を見抜いた西田は、胸の奥で、
(よし!)
 と、赤い舌を出した。
 通行人たちは、だれ一人として、三人のやりとりに気付かなかった。
 だれが見ても、親しい友人同士と感じるだけであっただろう。
 背後に何が隠されていようと、そこには、若い男女のみが持つ、特別なムードが醸《かも》し出されている。
 文江と幸子を乗せたガンメタリックのセダンが、そっとスタートしたのは、西田が声をかけてから十分と経《た》たないうちだった。
「いい車ですのね」
「竜野へ帰るバスは遅れることが多いので、本当に助かりましたわ」
 後部シートに腰を下ろした文江と幸子は、口々にそんなことを言った。
 西田は、バックミラーに映るその二人を、ちらっちらっと見遣《みや》って、
(どっちも美人だが、さて、オレはどっちを頂戴しようかな)
 淫《みだ》らな空想にふけった。
(二人とも、せいぜいご機嫌にしていればいい。すぐに、渋谷の野郎が乗り込んでくるんだぜ)
 車は姫路城の手前を左に折れ、国道179号線に入った。
 この国道の先の、田圃《たんぼ》の中に盛り土してオープンしたファミリーレストランで、渋谷が待っているのである。
 今夜は、たまたま方向が同じだから、文江にも幸子にも不審を抱かれずに済んだが、市街地を出外れてしまえば、否も、応もなかった。
 誘った女性の帰途が、逆方向だったとしても、渋谷を乗せないわけには、いかないのである。
 このファミリーレストランの前で、一時停車するとき、西田は、特に説明を加えたりしなかった。
 仮に、かすかな不安を相手が感じ始めていたとしても、それが決定的なものでない限り、水田に二分される暗い町外れまできて、彼女たちが車を降りるはずもなかった。
 
 渋谷は、西田の運転するセダンが近づいたとき、三本目のビールを、あけたところだった。
 渋谷は革ジャンパーのえりを立て、いつものように、入口に近いカウンターに浅く腰を下ろしている。
(へえ、意外と早かったやないか)
 打ち合わせどおりに、ヘッドライトが三回点滅を繰り返し、店の前の植え込みの横に車がとまると、渋谷は、思わず指を鳴らしていた。
 渋谷は慌てて会計を済ませて、ファミリーレストランを出た。
 小走りに車に近寄り、黙って助手席のドアを開けたとき、
(こりゃ驚いた。西田の奴、二人もくわえ込んだのか)
 渋谷の目には、昼間、『カメルーン』で圭子に見せたのと同じ、歪んだ光が過《よぎ》っていた。
 西田とはおよそ対照的な、その渋谷が、大きい顔をして助手席に腰を下ろし、乱暴にドアを締めると、初めて、文江と幸子の胸に不安が生じた。
「あの」
 ここのファミリーレストランで降ろしてください、と、文江と幸子は異口同音に話しかけた。
 しかし、西田は、無表情に車を始動させていたのだった。
 文江と幸子の不安が、ほとんど絶頂に達したのは、それから三分とは経たないうちである。
 渋谷が、にたりと笑いながら後部シートをふり向き、
「お二人とも、なかなかきれいな顔してる。美人だ」
 と、ビールに酔った吐息を、無遠慮に吐きかけてきた。
「あんたら、……したことあるかい」
 渋谷は、むき出しの、鄙猥《ひわい》なことばを並べた。
 そうしたことを口にし、文江と幸子の反応を窺《うかが》うことで、歪んだ楽しみを倍加させている感じでもあった。
 しかも、まじめな学生とばかり思ってきた運転台の西田は、背中を向けているだけで、渋谷をとめようともしない。
「降ろしてください。ここで、ここで車をとめてください」
 文江と幸子は、同時に叫ぼうとした。
 だが、恐怖が先に立って、ことばは乾いた喉《のど》に絡まるだけだった。
 ガンメタリックのセダンは、暗い星空の下の国道179号線で、次第に、スピードを上げている。
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