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湖畔の殺人6-5

时间: 2019-04-26    进入日语论坛
核心提示:   5 セダンは、宮脇の先で左へ折れ、県道に抜けた。 どこをどう走っているのか、文江にも幸子にも、まるで見当がつかなか
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 セダンは、宮脇の先で左へ折れ、県道に抜けた。
 どこをどう走っているのか、文江にも幸子にも、まるで見当がつかなかった。
 県道は徐々に淋しくなり、道幅も狭まってくる感じだ。
 行き交う車もなければ、農家の明かりなどもまったく見えなくなっている。
 夜の底で広がっているのは、枯れ田と、雑木林だけだ。
 ここでは、いくら叫び声を上げたところで、だれにも聞こえはしないだろう。
 しかも車は、さらに人気のない場所へと進んで行くのである。
 セダンが急停車したのは、姫路市内を出てから一時間が過ぎる頃であり、そこは、揖保《いぼ》川の河原だった。
 下流には作業場が点在しているけれど、いま河原を占めているのは、依然として吹きつづけている北風と、静かな川の流れと、星明かりのみだった。
「おい!」
 助手席の渋谷が、ふいに後部シートに転がり込んできたのは、西田がサイドブレーキをかけるのと同時だった。
 そして、次の一瞬、幸子が、西田によって助手席に引きずり込まれていた。
 いつもなら、まず順番を決め、一人は車から離れているのを常としたが、今夜は違うのである。
 渋谷と西田はいま、文字どおり動物のように、狭い車内で、同時に、文江と幸子を犯そうとしている。
 二人の男は、ただ飢えていた。
 西田が、ものも言わずに、幸子の乳房に手を伸ばすと、渋谷のほうは、文江のミニスカートを引きちぎるようにして脱がせ、パンティーストッキングに指をかけていた。
「やめて!」
「離してください!」
 羞恥を伴う悲鳴が、車内に満ちた。
 そして、それが、一層、渋谷と西田の欲情をかきたててくる。
「静かにするんだ」
「たっぷり、かわいがってやると言ってるじゃねえか」
 二人は、相手のやわらかい肌を抱き締めながら、そんなことを口走った。
 が、こうした経験を何度も重ねていると、別の興味も湧いてくる。
 完全に無抵抗な女よりも、多少は暴れる相手のほうが、刺激も強いのである。
(そう言えば、あのスケも、ほんまに困るほど泣きよったな)
 と、金曜日のデートを約束させた圭子の横顔を思い浮かべながら、渋谷は文江の恥ずかしい個所に分厚い掌を密着させ、彼女の細い指を、自分の部分に誘った。
「いまさら、恥ずかしがっても無駄だぜ。ケリがつくまでは、帰すわけにはいかないんだよ!」
 さっきまでとは一転した口調で、脅しつけているのは西田だった。
 西田は強引に、幸子の唇を開いていた。
 自分の相手よりも、お互いの相手の反応が、かつてない興奮を、渋谷と西田に与えようとしている。
「さあ、言うとおりにするんや」
 渋谷は革ジャンパーを脱いだ。
 ズボンもとった。
 そして文江の髪に手をかけると、西田が幸子に求めているのと同じことを、文江にも強要しようとした。
 河原を吹く北風の音も、揖保川の流れも、すでにそこからは遠かった。
 
 いったん消されたヘッドライトが、ふたたびともったのは、それからたっぷり一時間は過ぎる頃だった。
 渋谷と西田は、例によって相手のハンドバッグを探って身分証明書などを抜き取ると、その場で、文江と幸子を降ろした。
「この土堤の道を、三十分ばかり下れば、県道へ出る」
 と、冷たく言い放ったのは西田であり、渋谷のほうはラークを吹かしながら、声のない笑みを浮かべた。
「そのうち、会社へ電話するよ。身分証明書は、そのとき返すさかいにな」
 この北風の中で、傷ついた文江と幸子を放り出すことについては、何とも感じていない口調だった。
 まったく、けだものと変わるところのないオオカミどもと言えよう。
 渋谷と西田は、
「じゃ、な」
 と、乾いた笑声を残して、セダンをUターンさせた。
 そして、さっきに倍するスピードで国道へ引き返し、姫路市内へ戻った。
 
 渋谷と西田が逮捕された直接のきっかけは、スピード違反だった。
 いい気になって夜ふけの大手前通りを飛ばすガンメタリックのセダンを、白バイが追いかけてきた。
「ちえっ、ついてねえな」
 と、渋谷は口走り、
「罰金を払えばいいんだろ」
 西田は、白バイの巡査に向かって、不貞腐《ふてくさ》れたように言った。
 しかし、本署に出頭を求められた渋谷と西田が通されたのは、一階の交通課ではなかった。
 二人は、二階の刑事課捜査係へ連行されたのである。
「刑事さん、オレたち、人間を轢《ひ》き殺したわけじゃないんだぜ。何だって、刑事部屋なんかへ引っ張り込むんだよ!」
 西田は血相変えて抗議したが、しかし、宿直の刑事は、それを無視した。
 刑事は、西田と渋谷の顔を交互に見てから申し渡した。
「身に覚えがないとは言わせないぞ。おまえたち二人の容疑は、婦女暴行と恐喝ということになる」
「何やて!」
 渋谷が頓狂な声を上げた。
 実は、昼間『カメルーン』を出た三宅圭子が、すべてを届け出ていたのだった。
 思い詰めた圭子は親しい同僚に同行してもらい、記憶に残る西田の乗用車のナンバーを、刑事に告げた。
 しかし、あの圭子が、まさか警察へ訴え出るなんて想像もしない渋谷と西田は、一瞬、ぽかんとした表情をしていた。
 その二人の頭上で、刑事は一定の口調でつづけた。
「二人とも泊まってもらうことになるね。車は、証拠物件として押収する」
「え?」
 と、渋谷と西田は叫んだ。
(どこから、こんなことになっちまったのか)
 そんなまなざしだった。
 二人の野獣に、罪の意識はまったく感じられない。
 師走の風だけが依然として強く、刑事部屋の窓で音を立てていた。
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