『ホクエツ』本社に近いワイン輸入会社というと、一社しかなかった。
横浜市中区|住吉《すみよし》町五二三 株式会社『三友《みつとも》商事』
淡路警部は、走り書きを山岡部長刑事に手渡し、
「聞き込みには、当方の刑事をつけましょう」
と、言ってくれた。
横浜の地理に不案内な山岡と原は、好意にあまえることにした。
それは横浜スタジアムの近くで、YMCAの裏側に位置していた。
独立した、六階建ての、窓の多いビルだった。
三人の刑事が『三友商事』の守衛室に立ち寄ったのは、間もなく、午後五時になろうとする頃である。
十二月の街路はすでに暗くなっており、日曜日のオフィス街はほとんど人影もなく、ひっそりしている。
山岡は守衛室で、差し障《さわ》りのない程度に事情を話して、社員名簿の提示を求めた。
「社員名簿を外部に見せる場合は、総務部の許可が必要です。すみませんが、明日、出直していただけませんか」
守衛はそう口にしたものの、目の前に立ちふさがる三人の刑事に気圧《けお》されたか、一瞬の逡巡《しゆんじゆん》の後で、横の小引出き出しに手をかけた。
守衛が机に載せた名簿は、横|綴《と》じで、薄っぺらなものだった。
「モトジマ」はいた。
本島高義《もとじまたかよし》、三十七歳。『三友商事』では営業部に属し、係長のポストについていた。住所は、市内南区|浦舟《うらふね》町のマンション、『ハイツ芝台《しばだい》』二十一号となっている。
「市立大病院の傍《そば》ですね。ここから、車で十五分ほどです」
地元の刑事が、山岡と原に説明した。
「本島さんがどこの出身か、ご存じありませんか」
山岡が守衛に尋ねた。
「ええと、確か」
守衛は考える目をして、東京の私大の名を口にしかけたが、自信はなさそうだった。
「大学ではなく、出身地です。京都方面、関西ではありませんか」
山岡が質問を絞ると、これははっきりしたこたえが返ってきた。
「本島さんは秋田の出身です」
「秋田?」
「横手です。雪のかまくらの話を何度か聞いたことがあります」
「本島さんは、横手の人間ですか」
刑事三人の顔色が変わっていた。
三人は『三友商事』の本社ビルを出ると、タクシーを拾って、浦舟町へ急行した。