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寝台急行銀河の殺意4-5

时间: 2019-04-26    进入日语论坛
核心提示: 山岡部長刑事と、原刑事が町田駅に降りたのは、午後二時過ぎである。 JR横浜線と小田急線が入っている町田は、にぎやかで活
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 山岡部長刑事と、原刑事が町田駅に降りたのは、午後二時過ぎである。
 JR横浜線と小田急線が入っている町田は、にぎやかで活気のある町だった。
 駅の周辺にはデパートなどの大きいビルが立ち並び、大都会のようなムードを形成している。
「どこへ行っても、横手とは違いますね」
 原が人通りの多い商店街を見回すと、
「町田のレストランで本島が割れれば、でっかいみやげを持って、横手へ帰ることになるぞ」
 山岡は勢い込んだ。
「主任、本島の顔写真も、手に入れてくるべきでしたかね」
「いや、あの男なら、口で説明しただけで通じるよ」
 山岡はタイル張りの駅前広場を横切り、派出所に寄った。
『ニューバレル』は、すぐに分かった。
 駅の傍《そば》に久美堂《ひさみどう》という大きい書店があり、『ニューバレル』はその裏側だった。
 こぢんまりとしているが、北欧ふうなインテリアの、高級レストランである。カウベルを模《も》したドアチャイムが下がっていた。
 ランチタイムと、ディナータイムの中間なので、レストランは空《す》いている。聞き込みには都合のいい時間帯だった。
 レジにいるマスターは、四十前後だろうか。蝶《ちよう》ネクタイが似合う、長身だった。
 山岡部長刑事と原刑事は警察手帳を示し、白井の顔写真を、レジのカウンターに載せた。
 すると、レシートの内容を告げるまでもなく、
「はい、よくお見えいただいております」
 反応があった。
「お名前までは存じませんが」
 白井は『ニューバレル』の常連客だったのである。
「お肉がお好きでしてね。当店のステーキを、とても気に入ってくださっています」
 いつもウイスキーの水割りを飲みながら、ステーキを食べていたという。レシートのとおりだ。
「彼が、こちらのお店へ来るようになったのは、いつ頃からですか」
「そうですね、確か、昨年の七月だったと思います」
「昨年の七月?」
 それも、引っかかるではないか。白井が、最初に一千万円を流用したのが、昨年の七月だ。
「よほど、こちらのお店が、好みだったようですな」
「ありがとうございます。ですが、お見えになるのは、月に一度ぐらいでした」
「レシートを見ると、毎週日曜日に立ち寄っている感じですが」
「ご利用いただくのは、いつも日曜日の午後から夕方にかけてでした」
 しかし、毎週現われたのは、文庫に挟まれていたレシートのように、十月下旬から十一月へかけてだという。
「最後に寄ったのは、十一月十二日ですね」
「いいえ、十九日の日曜日にも、お見えになっていますよ」
 マスターは、半月前を思い起こすようにして、こたえた。
 十九日のレシートは、文庫本にはなかったが、それも当然だ。白井は十八日、土曜日正午の退社時間を最後として、『ホクエツ』には出社していないのだから。
「主任、白井は、少なくとも十九日まではこっちにいたことになりますね」
「藤森アパートに入居したのは二十一日だから、二、三日、どこかで、何かをしていたか」
 二人が、質問の途中で、検討の会話を挟むと、
「そう言えば、このところ毎週見えていたのに、先々週も、昨日の日曜日もお見えにならなかった。あのお客さん、どうかされたのですか」
 マスターの表情が変わってきた。
 業務上横領を伝える新聞報道には白井の顔写真も掲載されているが、マスターは見落としたのだろう。
 山岡は、マスターの問いかけにはこたえず、次の質問に移った。
「彼はいつも二人で来たようですが、当然、同じ相手だったのでしょうね」
「ええ、そうですよ」
 こたえはストレートに返ってきた。
「その相手ですがね」
 と、つづける山岡の横顔が、ベテランらしくなく緊張しているのを、原は見た。
 山岡はカウンターに置いた白井の顔写真を引き寄せながら、
「同行者は、眼鏡《めがね》をかけて、陽気に笑う男性ではありませんか」
 本島の特徴を並べた。
「はあ?」
 マスターの表情が、もう一度変わった。
「刑事さん、何をお調べか知りませんが、お連れ様は男性ではありません。三十前後でしたかね、女の方ですよ」
「女?」
 若い原が、一歩前へ出た。びっくりした声になっている。
 では、毎回これだけの水割りを白井が一人で飲んだのか、と、言いかけて、
「そりゃ、女の人だってウイスキーを飲みますよね」
 原はマスターの顔を見た。マスターはうなずいてこたえた。
「ほっそりして、とても、おきれいな方です」
「この男が、そんな美人と交際していたのですか」
 山岡は思わず、白井の顔写真をかざしていた。
「ご夫婦という感じではありませんが、親密なお二人でした」
 と、マスターは言った。
 マスターの観察が細かいのは、職業意識もあろうが、どうやら、その女性が、相当に色っぽい美人であったためらしい。
「ひょっとして、クラブのホステスさんのようなことをしている方かもしれません。と、したら、高級なクラブではないでしょうか」
 マスターは口籠《ご》もりながらも、そんなふうにつづけた。
 マスターが「高級」と言ったのは、女性の品の良さを意味していた。
(やはり、女はいたのか)
 ベテランも、信じられない顔になっている。
(白井が美人と親しくしていたなんて、本当の話でしょうか)
 原の目は複雑に揺れている。
 しかし、第三者であるレストランのマスターが、うそを口にするわけもあるまい。
 品が良くて色っぽい美人と、白井は、少なくとも昨年の七月頃からつきあっていたというのか。
 その交際を、だれにも知られずにいたのはなぜか。
 さっき山岡が考えたように、デート場所である町田が、距離は近くとも、県境を越えた町であることが、一種の隠れ蓑《みの》になっていたのかもしれない。
 それにしても、『ニューバレル』でこれほど会っているのに、白井が美貌《びぼう》の女を完璧《かんぺき》に隠し切っていたのは、いかなる理由によるのか。
 結婚願望が強かった白井だけに、やっと知り合った美女の、言いなりになった、と、いうのだろうか。
(うん、白井は女の意のままに、コントロールされていたのかもしれないね)
(主任、公金流用もこの女が設計図を引いたのでしょうか)
(犯罪の陰に女ありか)
 さっと視線を交わした刑事の目と目が、そう語り合っている。
 いずれにしても、電話の女は、幻影ではなかった、ということか。
 だが、大津の白井の実家に問い合わせてきた電話と、本島に横手帰郷を指示してきた電話では目的が違う。
 この色っぽい美女は、どっちの電話の主《ぬし》なのだろう?
 山岡が、思いもかけない新発見に興奮しながら、
「これは極めて重要なことですが」
 質問を絞ると、マスターは、すんなりうなずいて、こたえた。
「あの女性は、新潟の人ではないでしょうか」
「心当たりがあるのですか」
 原の声が、また高くなった。
「少なくとも、新潟に関係のある方だと思いますよ」
 マスターは、レジのカウンターに置かれたアイボリーの電話機に目を向け、
「最後にお見えになったとき、あの女の方は一○○番申し込みで、新潟市へお電話なさっていました」
 と、言った。
 入口のドアを出たところに赤電話はあるが、『ニューバレル』にカード電話は設置されていない。
 女は、遠距離通話なので、レジの電話を借りて一○○番申し込みをしたらしい。電話機がマスターの前に置かれてあったのは、刑事にとって幸いだった。
 その電話先を、マスターが記憶しているのは、女の美貌《びぼう》に関心を寄せたのが遠因だろうが、
「おかけになっていたのは新潟ですが、お店の名前が、そこの喫茶店と同じでしてね、それで覚えているのですよ」
 マスターはつづけた。
 レストランの斜め前にある喫茶店は、『シャルム』という名前だった。
 女は一○○番で新潟を申し込み、先方が出ると、
『シャルム新潟ですね』
 二、三度聞き直してから、マネージャーを呼び出していたという。
『シャルム新潟』とは、クラブかキャバレーだろうか。だが、新潟の店に電話をかけたからといって、女が新潟の人間とは限るまい。
「それがですね。私、決して、聞き耳を立てていたわけではございませんが」
 マスターは蝶《ちよう》ネクタイに手をやった。
 聞こうとしなくとも、目の前の電話だ、嫌でも会話が飛び込んでくる。
『シャルム新潟』のマネージャーを呼び出した女は、
『結婚前に、あたし、一度新潟へ帰るわ』
 そんなことを口にしていたという。
「なるほど。それが、帰郷という感じだったのですね」
「はい」
「他には、何か思い出しませんか」
「刑事さん、いまも申し上げましたように、私、お客様の話を、盗み聞きしていたわけではございませんので」
 マスターは、会話の一部を耳にとめただけでも、恐縮したような顔をした。
 山岡部長刑事には、このマスターを責める資格も意思もなかった。
 きっかけは三枚のレシートだったとはいえ、これは、レシートを大きく上回る、重要な聞き込みではないか。
 ついに、幻影の美女が、ベールの向こうに姿を見せたのだ。
 山岡部長刑事と原刑事は、『ニューバレル』を出た。
「女が実在するなら、本島の供述は事実ってことになる」
 山岡は雑踏の中で、原を振り返った。
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