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寝台急行銀河の殺意4-12

时间: 2019-04-26    进入日语论坛
核心提示: 谷田実憲が、新潟にいる浦上伸介からの電話を受けたのは、午後一時過ぎである。谷田は記者クラブで、出前のかつ丼を食べていた
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 谷田実憲が、新潟にいる浦上伸介からの電話を受けたのは、午後一時過ぎである。谷田は記者クラブで、出前のかつ丼を食べていた。
 さっきの勢いはどこへやら、
「千葉国彦のアリバイは、完璧です」
 浦上の声は元気がなかった。
 谷田は食べかけのかつ丼を、脇にどけた。
「香港旅行だと? どこへ行こうと構わないが、千葉は、何でその時期に日本を離れていたんだ?」
「裏に何かある。ぼくだって、そう直感しましたよ」
 電話を伝わってくる声は、やはり低かった。
 旅行日と犯行日の重複は、本当に偶然なのか。
 いったんは香港へ行ったものの、翌朝日本へ引き返し、横手での犯行を完了して、再度香港へ渡る。
 そして、団体旅行に合流して、二十八日の夕方、大阪空港へ帰ってくるという、アリバイ工作が成立するのではないか。
 谷田が、一瞬の思い付きを言うと、
「千葉は出発から帰国まで、ずっと十六人の同行者と一緒でした」
 浦上はこたえた。
「ツアーを主催した旅行社が、市役所の近くと聞いて、ぼくはシャルム新潟を出ると、直接訪ねました。同行したツアーコンダクターにも会いました」
「旅行中の五日間、千葉が十六人と同一行動をとっていたというのは、ツアコンが証人かね」
「念のためにもう一人、ツアーの参加者にも当たりました。添乗員に紹介してもらったのは、新潟市役所の職員です」
「ルポライター浦上伸介の目で見て、偽証の可能性なしか」
「九十九パーセント、偽証はないと思います。千葉は、旅行社が地元新聞に掲載した広告を見て、申し込んできたということです。旅行社にとっては、それまで面識のない、初めての客だったそうです。また、市役所の職員は来春停年という人で、夫婦での参加でした。どちらも、裏で、千葉とつながっている感じはありません」
「こと、殺人《ころし》に関しては、千葉は真っシロってわけか」
「新潟県警の刑事《でか》さんも、この点は確認済みだと思いますよ」
「離婚の理由を聞いたか」
「千葉は被疑者じゃありません。刑事《でか》さんにしても、突っ込んだ質問は無理だったでしょうが、美穂子は、女にしては珍しく事業欲が強かったとか」
「事業欲? それが離婚の遠因か」
「美穂子は高校生時代から、大都会志向が強かったそうですから、日本海側の新潟という町に、飽き足らなかったのではありませんか」
「どういう育ち方をした女なんだ?」
「ごく一般的な、会社員の一人娘です。家計は、それほど豊かではありません。両親はずっと社宅暮らしだったそうですから」
「それがまた、どうして?」
「詳しいことは聞けませんでしたが、気が強くて、行動力を持つ女性であることは間違いありません」
「自分の思いどおりに生きるタイプか」
「故郷を離れた表向きのきっかけは、両親との死別ですが、千葉から得た感触では、どうも、裏に別の理由があるようです」
 美穂子の両親が、相次いで病死したのが五年前。
 社宅住まいの両親だったので、遺産といったほどのものはないが、退職金やら何やらで、それなりにまとまった金額が、美穂子の手に入った。
「美穂子は、それを機に、独立したいと千葉に離婚を申し出てきたそうです」
「一ヵ所に安住する人間ではないわけか。いるんだよな、このごろは、こういう女が」
「無論、千葉は反対したそうですが」
 美穂子は聞く耳を持たなかったという。
「裏に別の理由があるって感じるのは、千葉の説明がすっきりしないせいか」
「ぼくの思い過ごしならいいのですが、出奔《しゆつぽん》の理由が他にあったとしたら、それが、今回の一連の犯行の、遠因となっているのかもしれません」
 浦上は口|籠《ご》もるような言い方をした。
 美穂子は当初、東京・西日暮里《にしにつぽり》に嫁いだ、竹下正代《たけしたまさよ》という高校時代のクラスメートを頼って上京し、正代がパートとして出ている神田のスナックで働いたが、短期間のうちに、いくつかの店を転々として、横浜に『ルアンダ』を開いたのが二年前、と、浦上は電話の向こうで取材メモを読み上げた。
「しかし、こういう女ですから、小さい喫茶店経営で、満足するわけがありません。いずれは横浜の中心地へ進出するもくろみらしいですよ」
「殺された白井のイメージとは、釣り合わないね」
「白井に接近した目的は、現金《キヤツシユ》だけだったのではないですか」
「相当に、悪質な事業欲だな。美人だそうだが、そんなあくどい女か」
「かっとなると、周囲の一切を、黙殺する性格です。千葉は、突然離婚を切り出されたときに、それを知ったそうです」
「そんな女が、自分の勝手で別れた亭主に、時折電話をかけているのは、どういうことかね」
「東京や横浜へ出てからの五年間、心から打ち解ける相手を、得られなかったからではありませんか」
「男よりも商売か」
「美穂子は、心底から相手を信用することがないタイプだそうです。従って男女を問わず親しい友人はいない、と、千葉は断言しています」
「だから、心に間隙《かんげき》が生じると、別れた亭主と電話でおしゃべりか。寂しい女だね」
「でも、電話だけで、それ以上のものはなかった、と、千葉は言っています」
「美穂子が新潟へ帰郷したとき、めしぐらい食っているだろう」
「離婚以来、顔を合わせていないそうです。第一美穂子は、両親の他界で新潟に縁続きがいなくなったせいもあってか、五年間、一度も、新潟へは帰っていないようです」
「千葉は、再婚するという話だったね」
「実は、先月の香港行きは、一種の婚前旅行でした」
「何だ、再婚相手が一緒だったのか」
「間もなく女房になる女では、アリバイ証言を取っても始まらないでしょう。ぼくは無視しましたが、千葉は、年末に予定される再婚を、手紙で美穂子に知らせているんです」
 手紙を投函《とうかん》したのが、先月の中旬過ぎだったというから、十一月十九日に、美穂子が町田の『ニューバレル』から『シャルム新潟』へ電話をかけてきたのは、千葉の�通知�を手にした直後であっただろう。
 美穂子が、別れた夫の再婚をどのように受けとめていたのかは分からないが、
「何も、白井とデートしているレストランから電話しなくても、よさそうなものなのにな」
 谷田が、ことのついでで口走ると、浦上は、すでに、その点の整理もつけていた。
「ぼくが考えるにはですね」
 浦上は言った。
「美穂子は町田のニューバレルで、いつもの日曜日のように白井と落ち合い、そのまま、横手まで、白井を送り届けたのではないでしょうか」
 美穂子は、しばらく旅行がつづくかもしれないと、千葉に告げているのである。
 犯罪絡みの旅先では、落ち着いて電話もできないだろう。で、出発前にかけた。
「違いますか」
 浦上は畳み込んできた。
 美穂子のような人間にも、前夫の再婚を聞かされて、微妙に揺れる何かがなかったとは言えまい。
 千葉が新しい生活を持てば、これまでみたいな電話のおしゃべりも制限される。
「それで、横手へ向かう直前に、町田のレストランからの電話になったのではないでしょうか」
 と、浦上はつづけた。
 それは、千葉がシロであることを前提とする分析だった。
「そういうことになるかね」
 受話器を戻すとき、谷田も、うなずき返していた。
 だが、千葉国彦が犯行に無関係だったとすると、事件発覚の端緒となる電話を、『藤森アパート』の家主にかけてきた男はだれだろう?
 毒殺された白井保雄のギャンブル仲間である陽気な男、ワイン輸入会社『三友商事』の営業部係長本島高義が、別な形で浮上してくるのか。
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