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寝台急行銀河の殺意4-13

时间: 2019-04-26    进入日语论坛
核心提示: その頃、横手から出張してきて四日目になる山岡部長刑事と原刑事は、『二俣《ふたまた》製作所』という町工場を訪ねていた。 
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 その頃、横手から出張してきて四日目になる山岡部長刑事と原刑事は、『二俣《ふたまた》製作所』という町工場を訪ねていた。
 金曜日の夜行列車で横手を出発して、今日は火曜日だ。
 不慣れな大都会での聞き込みが、目に見えないストレスを、二人の刑事に運んでいる。捜査は順調に進んできた。しかし、肝心の篠田美穂子の行方が分からない。
 美穂子に接近できないことが、刑事の疲労を深めている。
 美穂子は、どこへ行ったのか。
『コーポ羽沢』三十二号室は、今日も応答がなかった。
 隣室を聞き込んでも、まったく要領を得なかった。美穂子は、住人たちのだれとも、つきあっていなかったのである。
 横手北署の捜査本部へ、報告電話を入れると、
『夕方まで待っても、現われなかったら、管理人を同行して、マスターキーで室内《なか》へ入れ』
 そういう指示が返ってきた。
『白井みたいに、部屋の中で、ひっそり毒殺されているってわけじゃないでしょうね』
 原刑事は言った。
 山岡部長刑事も、それを危惧してはいたが、口には出さなかった。
 マンションの張り込みを中断して、二俣川駅前へ戻ったのは、『ルアンダ』などが入っている三階建て共同ビルの所有者が、ビルの裏手に住んでいる、と、『コーポ羽沢』の管理人から聞き出したためだった。
 ビルの所有者は、ビルと同じ敷地内で、古くから町工場を経営していた。周辺が発展してきたので、空《あ》いている土地に小さい貸しビルを建てた、といういきさつのようだった。
『二俣製作所』という立派な社名だが、働いている工員は、工場主も含めてわずか三人。文字どおりの町工場だった。
『ルアンダ』は日曜日が定休だが、美穂子は以前から、臨時休業することがあったという。
「一人で切り回しているせいでしょうな。用事ができれば、店を閉めなければならない」
 初老の工場主は、刑事の質問にこたえて言った。
 小さい工場内には、資材などが、堆《うずたか》く積まれてあった。その雑然とした町工場の、片隅での立ち話である。
「でも刑事さん、店を休んでいるのはともかくとして、篠田さん、マンションにもいないのですか」
 工場主は眉間《みけん》にしわを寄せた。工場主は、この間の事情に関しては、何も承知していなかった。
「五日ほど前でしたか、夜、ふらっと寄っていかれましたが、そう言えばその後見かけないですね」
 工場主は言った。
 聞き込みは、公金横領や、殺人事件とは距離を置いたものになった。
「そりゃ、一人で店をやっているのだから、しっかりした女性ですよ」
 工場主はこたえる。
『ルアンダ』は、午後四時から五時までが休憩時間で、美穂子は、よくこの工場へ話し込みにきていたという。
 激しい気性を秘めていても、上辺《うわべ》は親しみやすい女性だったらしい。
「あの人の夢は、男の私ら顔負けでしたよ。関内か伊勢佐木町《いせざきちよう》にスナックを持ちたい。それが口癖でしたからね」
 と、工場主はつづけた。
 その�夢�は、浦上が『シャルム新潟』で、前夫の千葉国彦から聞き出している。行動力のある美穂子は、不言実行ならぬ、�多言実行�派だったのかもしれない。
「あの人のことだから、着々と進出計画を進めている感じでしたよ」
「スポンサーでもついたわけですか」
「スポンサーって、美人に言い寄る、金持ちのことですかい」
「喫茶店の経営だけで、スナック開業資金を稼ぎ出せるとは思えませんが」
「資金繰りは知りませんが、あの人は、男とだらしなくつきあうタイプではありませんよ」
 工場主は断定するように言った。
 だらしのない交流はなくとも、人目を隠れての交際は有り得るか。山岡部長刑事は、そんな目で原刑事を振り返った。
 原が質問を代わった。
「この人に記憶はありませんか」
 原は、殺された白井の顔写真を示した。
「ルアンダのお客さんですか」
 工場主はちらっと写真を見たが、顔を横に振った。
「美人のママさんだから、男性客は多いですよ。特に、夜、アルコールを出す時間になると、結構はやっていました。ですが、店のお客のことまでは知りませんな」
「篠田美穂子さんが、かつて結婚していたことは聞いていますか」
「知ってますよ。別れたご亭主は、新潟のホテルにお勤めでしょ」
 その点に関してのこたえは、すらすらと返ってきた。
 マンション内での美穂子は、住人たちとまったく没交渉だったが、『二俣製作所』では違う。
 午後の休憩時間のほかにも立ち寄ることがあったし、他の二人の工員たちとも、よくおしゃべりをしていたようだ。工場主同様、従業員はいずれも年配者なので、気が許せたのかもしれない。
 だが、それでもなお、町田のレストラン『ニューバレル』で、白井と飲食していたことは、これっぽっちも、気付かれてはいないのである。
 それが、問題だ。
 単なる男女関係ならば、それほど神経質に隠す必要はあるまい。
 美穂子は、人妻のような拘束があるわけではない。だれとでも、フリーにつきあえる立場ではないか。
 やはり、伏線は、大金横領だろう。一億四千万円が前提にあったからこそ、白井との交際は、だれにも知られてはいけなかったのだ。
「主任、そういうことでしょう」
 原刑事が繰り返したのは、小さい町工場での聞き込みを終えて、県道に戻ったときである。
 一車線の県道は、トラックなど、自動車の往来が激しい。
 二人の刑事は厳しい表情で県道を歩き、『コーポ羽沢』へ引き返した。
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