当然、浦上も『二俣製作所』へ戻った。検証に取材記者の立ち会いは異例だが、いまの浦上の場合はやむを得ない。
山岡と原は、昨日『二俣製作所』を聞き込んでいるだけに、
(週刊誌に出し抜かれた)
という面持ちを隠せなかった。
それにしても、びっくりしたのは、町工場だ。
「うちの青酸ソーダが、何かの犯罪に流用されたなんて、そうしたことは絶対にありません」
工場主は顔色を変え、
「おまえさんが、勝手な想像を警察へ通報したのか」
浦上を見た。
山岡部長刑事は、その工場側の疑問を無視して、命令するように言った。
「今朝、この週刊誌の記者さんが取材したことも、われわれが検証にきたことも、しばらく、篠田美穂子さんには、ご内分に願います」
工場側としては、刑事の説明不足が釈然としなくとも、協力せざるを得ない。
初老の三人は、渋々ながらではあるが、指紋提供にも応じてくれた。
鑑識作業は、三十分とかけずに終了した。
その結果、保管ケースと青酸ソーダのびんから、一点、三人の工員たちとは合致しない渦状紋が出てきた、浦上の見込みどおりだった。
しかも、それは、昨日谷田が美穂子から預った絵はがきに付着する真新しい渦状紋、すなわち美穂子の指紋とぴたり一致したのである。
局面は一気に終盤、大詰めを迎えた。