次の行き先を、『京都東急ホテル』と告げただけで、タクシーに乗ってからはしばし無言だった。
高野川が賀茂《かも》川と合流する市街地へ戻るまで、浦上は絵はがきを見詰めつづけた。
今年一月からは使用されていない記念スタンプであるなら、これが押されたのは、昨年の十二月までだ。
(トリック解明のキーは、これか?)
本能的にそう感じるものの、その先が分からない。
いずれにしても、絵はがきは、昨年末までに入手されていたことになる。
白井は、なぜ、古い絵はがきを流用したのか。
「去年の絵はがきを、今年投函する」
無意識のうちにそうしたつぶやきが漏れて、その自分のつぶやきを、第三者のもののように聞いたとき、
「運転手さん、ホテルはやめて、京都駅へ戻してください」
浦上は行き先の変更を告げていた。
(これか?)
浦上が、自分自身に投げかけたのは、(記念スタンプは昨年のものでも)間違いなく今年の取集であることを示す、京都中央郵便局の消し印を再確認したときである。
消し印と同時に、三枚の切手に、浦上の注意が向けられていた。二枚の二十円切手と、一枚の一円切手。
封書とか普通の私製はがきならともかく、下半分が通信欄で、あて名を書くスペースが少ない絵はがきに、三枚の切手は多過ぎやしないか。
ふと、それを思ったとき、切手の向こうに潜むものが、浦上に見えてきた。
タクシーが京都駅に着くと、浦上は地下街『PORTA』へ駆け下り、喫茶店に、飛び込んだ。
「コーヒー」
と、注文したが、コーヒーを飲みたいわけではなかった。
目的は、ウェイトレスが運んできた、コップの水である。
浦上は絵はがきをテーブルに置き、コップの水の中へ指を突っ込んだ。
緊張した表情で、水で濡らした指先を、三枚の切手の上へ持って行った。
何度も単調な作業を繰り返し、切手が湿り気を帯びてきたところで、浦上はキャスターをくわえた。
三枚の切手を剥《は》がしにかかったのは、一本のたばこを、ゆっくりと灰にしてからである。