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寝台急行銀河の殺意8-6

时间: 2019-04-26    进入日语论坛
核心提示: それから一時間後の午後五時過ぎ、浦上は、『毎朝日報』横浜支局で谷田と会っていた。 二階編集室の、大部屋の一隅である。 
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 それから一時間後の午後五時過ぎ、浦上は、『毎朝日報』横浜支局で谷田と会っていた。
 二階編集室の、大部屋の一隅である。
 夕方の支局は、新聞記者の出入りが慌ただしい。
 浦上が顔見知りの支局長に簡単なあいさつをすると、
「週刊広場、というよりも、浦上さんとのご縁がまた一つ、深まりましたな」
 小太りの支局長は、よろしく、というように一礼した。
 捜査陣に新しい動きがないだけに、先行を自覚する支局長は、特ダネ確保の緊張を隠せなかった。
 谷田もまた、
「明日の朝刊はもらった」
 声に出し、顔に出していた。
 谷田は、神田からの電話を受けた直後、淡路警部に対しては、
『浦上が何か嗅《か》ぎ付けてきたようです』
 そうした言い方で、後で決定的な連絡を入れることを、ほのめかしておいたし、記者クラブでは、すでに、サブキャップが予定原稿を書き始めている。
 スクープのお膳立ては、着々と進行中なのである。
 浦上との検討の場を横浜支局としたのも、他社に気付かれないためと、関係方面との連絡を、密にするためであった。
 小太りの支局長は、奥の支局長席で、一応静観の姿勢をとってはいるが、全神経は浦上と谷田に向けられている。
 篠田美穂子のアリバイを崩し、他社に悟られないよう淡路警部に電話を入れ、横手北署の捜査本部が殺人容疑の逮捕令状を請求した時点で、横浜支局長のゴーサインが出ることになっている。
 浦上のほうは、日刊紙と違って一刻を争うわけではないが、実際に横浜支局の編集室に身を置くと、スクープを前にした新聞記者《ぶんや》の緊張感が、嫌でも、ひしひしと伝わってくる。
 浦上と谷田は、大部屋の一隅にあるソファで、最後の分析に入った。
「まず、これを見てもらいましょうか」
 浦上は、のっけから時刻表を開いた。
 もちろん犯行時、先月(十一月)号の時刻表であり、神田駅から桜木町駅へ来るまでの間、何度も見返してきたのは、東海道本線の下りページだ。
 正代がホームへ上がって行ったのは、10番線から�湘南《しようなん》ライナー7号�が発車するときだから、二十二時三十分。それから間もなく、�銀河�が9番線に入ってくる。
「留意すべきは、ここです」
 浦上は�銀河�の入線時刻を指差した。�銀河�の発車は二十二時五十五分だが、入線は二十二時三十三分となっている。
「先輩、アリバイ崩しの出発点が、東京駅9番線ホームであることは間違いありませんが、時間は二十二時五十五分ではなく、二十二時三十五分頃、ということになります」
 浦上は、正代が寝台急行の�発車�を見送ったのではなく、美穂子の�乗車�を見届けたのに過ぎないことを、声を大にして繰り返した。
「錯覚を与える、微妙なトリックが、それか」
「正代さんがホームから引き返すのを待って、美穂子は、すぐに列車を降りた。東京のほうが、品川よりもずっと上野に近いですよ」
 浦上は笑みを浮かべる。
「それから後の足取りチェックは、先輩と共有の楽しみに、とっておきました」
 浦上は時刻表と並べて、テーブルの上に取材帳を置いた。自信のある、まなざしだった。
 昨夜の検討のように、品川駅二十三時二分を出発点とすると、(品川|上野間所要十八分・運転間隔も最長の七分・乗り換えを二分と計算して)上野着が、実際には「二十三時二十九分頃」になってしまう。
 これが、東京駅二十二時三十五分を出発点とすれば、(東京—上野間は正味七分だから、運転間隔と乗り換え時間を足しても)上野着が「二十二時五十一分頃」と短縮される。
「先輩、この微妙な違いが、ものを言ってくるでしょう」
 浦上はことばに力を込めた。ここまで追い詰めてみれば、これで相手は投了、と、浦上が感じるのは当然でもあろう。
「もはや、敵玉を詰ますヨセ手順の、間違いようもないか」
 谷田は、同意しながらも先を急いだ。
 浦上は時刻表を引き寄せる。標準的なのは、四日前、浦上自身が出向いたときのように、東北新幹線から奥羽本線と乗り継いで行くルートだ。
 しかし、東北新幹線は、上野発二十一時十六分の�やまびこ129号�が最終だから、使えない。
 いや、その後に一本、臨時が走っている。これは、たまたま十一月二十四日運転の�やまびこ199号�だが、二十一時五十一分に上野を出てしまっているから、やはり駄目だ。
 在来線というと、奥羽本線経由、すなわち直行の青森行き、急行�津軽�があるけれど、この列車も二十二時三十七分発だから、
「乗車不可能か」
 浦上はつぶやく。
 周辺から固めていくのは、最後の一本を絞り出すための、いつもどおりの作業だった。寄り筋を読むときの将棋と同じだ。
 しかし、谷田は、出稿のタイムリミットを控えているだけに、長手順は待ち切れない。
「貸してみろ」
 時刻表に手を伸ばして一べつし、
「いまは結論を急ごう。これだな。この寝台特急は、上越本線を走る弘前行きだぞ」
 乱暴な筆致で書き出した。
 
  上野発 (十一月二十四日)二十三時 寝台特急�あけぼの81号�
  横手着 (十一月二十五日)六時二十六分
 
「ぴったりじゃないか。美穂子はこの交通《あし》を消すために、白井の生存時間を伸ばす、切手トリックを考案したのに違いない」
 谷田は淡路警部に連絡をつけるため、すぐにも受話器を取ろうとしたが、
「待ってください。この寝台特急は走っていませんよ」
 浦上が、谷田のメモにクレームをつけた。
「走っていない? 運転していない列車を、時刻表に載せるのか」
「こいつを見落としては困ります」
 浦上は、時刻表の列車名の下に出ている記号、を指差した。このは、臨時列車を意味する。
 谷田は旅慣れていないので、見逃しもやむを得ないが、その運転日を確認したとき、
「これも、計算してのことかな」
 浦上は思わず舌打ちをしていた。�あけぼの81号�の運転日注意欄は、次のように記されているのである。
 
  上野発11月21日までの毎日と 12月27日→1月10日運転
 
「嫌になっちゃうな。問題の十一月二十四日の、わずか三日前までは、毎日走っていた列車ですよ」
「三日前までか」
 谷田も、おうむ返しにつぶやく。
 三日前十一月二十二日までの殺人《ころし》でなければ、�あけぼの81号�は利用できない。
 この辺りから、ダイヤチェックの雲行きが怪しくなってきた。
「あれ?」
 浦上の横顔を不審がよぎったのは、それから間もなくである。
�あけぼの81号�以降にも、東北本線のページには、秋田や盛岡行きなどの遠距離列車が五本、列記されている。当然、そのどれかを使えばいいと思ったのだが、五本は、いずれも◆マークの臨時列車だったのである。
�あけぼの81号�を含めて、六本全部が、十一月二十四日には運転されていないことが分かった。いや一本だけ金曜日(二十四日)に運転されている新特急がある。しかし�なすの81号�は福島よりずっと手前の宇都宮が終点だから奥羽本線にはつながらない。
「おい! 新幹線も走っていなければ、在来線にも乗れないっていうのか!」
 谷田はもう一度、自分の目で、時刻表を確かめた。
「これじゃ、クラスメートを押し立てての、東京駅9番線ホームの小細工など、必要ないじゃないか」
 谷田は、いまいましそうに吐き捨てていた。
 どうなっているのだろう? 見当たらないのだ。どう見たって、北へ行く列車がない。
 十一月二十四日は、上野発二十二時三十七分の急行�津軽�が、横手へ行くための最終なのである。
 二十二時三十七分といえば、東京駅9番線ホームに停車中の�銀河�から脱出して、わずか二分しか経っていない。
 上野は、東京から四つ目の駅である。美穂子はそれこそ絶対に、�銀河�から�津軽�へと乗り移ることができない。
 
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