夏の強い日差しを浴びる白いマンションは六階建てだが、それほど大きくはなかった。1LDKが主体の、全室賃貸のマンションだった。
この辺りの国道沿いには、最近、次々と新しいマンションができている。しゃれた外観のビルと、周辺に残る昔からの古い家並との対照がアンバランスだった。
上星川では、期待する回答が得られなかった。
共稼ぎの若い夫婦とか、独身者が多いマンションである。ウィークデーのこの時間帯では、ほとんどが勤めに出ていて、留守だった。
管理人も常駐していない。
管理をしているのは、神奈川区鶴屋町の不動産会社と聞いて、二人の刑事は覆面パトカーを戻した。
鶴屋町は、横浜駅西口の近くだ。
「小出五郎さんは、21号室の前住者です」
不動産会社の担当者は、『井田マンション』入居者のファイルを確認して言った。
前住者というだけなら、美津枝とは関係ないのか。
「はい。電話は、名義変更の請求が済んでいないのだと思います。こうしたケースは、他にもよくあります」
と、担当者はつづけた。
高橋美津枝が借りた21号室は1DKで、美津枝は間違いなく独り暮らしだったという。賃貸契約は今年の五月三十日。入居して、三ヵ月しか経っていないわけだ。
それでは、電話がそのままということも有り得るか。
刑事はうなずいた。「小出五郎」の名前はどうやらリストから消えそうである。
「高橋さんの前の住所ですか? 前住所は、大阪のマンションですね」
と、担当者は刑事の質問にこたえて、言った。
大阪府|守口《もりぐち》市寺内町七五『パレス17』505号。
所定の欄に、そう記入されており、横浜の『井田マンション』入居に際しての保証人は、高知県に住む実兄、高橋一夫となっている。
実兄の住所は、すでに、松山南署の捜査本部が、美津枝の運転免許証から明らかにしている本籍地と同じものだった。
都会暮らしが何世代かつづくと、本籍地との関係が、希薄になってくる例が少なくないけれど、美津枝の場合は、本籍地に実兄が住んでいるということだろう。
保証人の印を押した実兄は四十二歳で、職業は食堂経営と記されている。
実兄は美津枝と同じ高橋姓だから、美津枝は未婚と見ていいのか。
三ヵ月前に大阪から転居してきた女性で、独身の一人暮らし、と、刑事は警察手帳に書きとめて、美津枝の職業を尋ねた。
「会社員です。でも、会社がどこであるのか、詳しいことは、このファイルでは分かりません」
と、不動産会社の担当者はこたえた。