一夫はタクシーを飛ばして、港に近い松山南署へ入った。
何はともあれ、遺体の確認が、すべてに優先する。
見るからにまじめそうな一夫は、固い表情で、霊安室へ向かった。
案内した刑事が、死者の顔から白布を外すと、
「だれが、だれがこんなむごいことをしたのですか!」
一夫は、変わり果てた妹を見詰めて、棒立ちになった。
一夫は刑事の肩を借りるようにして、重い足取りで、三階の捜査本部に行った。
事情聴取は慎重に進められた。
しかし、新しい発見はなかった。
結局は、高知県警が連絡してきた内容を、敷衍《ふえん》したのに過ぎない。
「美津枝は、一体、いつから四国へ戻っていたのでしょうか」
一夫は、逆に質問してくる始末だった。
もちろん、『週刊広場』も、浦上伸介なるルポライターにも、一夫は、一切心当たりがなかった。
二人きりのきょうだいで、年齢の離れた妹をいかにかわいがっていようとも、一夫は、都会で生活する美津枝の日常を、知らな過ぎた。
一夫は遺体を引き取ると、とんぼ返りで高知へ戻るために、搬送車をチャーターした。