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松山着18時15分の死者5-5

时间: 2019-04-27    进入日语论坛
核心提示: 浦上と澄子は、るり子と別れて、一足先に『ホテル・レキシントン』を出た。支払いは、もちろん浦上が済ませた。 午後の舗道に
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 浦上と澄子は、るり子と別れて、一足先に『ホテル・レキシントン』を出た。支払いは、もちろん浦上が済ませた。
 午後の舗道に足を向けたとき、
「案内がてら、写真撮影につきあってくれませんか」
 と、浦上は澄子に頼んだ。「夜の事件レポート」に使用するために、『不二通商』大阪支社と守口市の『パレス17』の写真が必要だ。撮影は、当然一人でできるわけだが、何となく、澄子と別れ難い感情があった。
 澄子の目を通しての、美津枝という女性を、もっと聞き込んで置きたいとも思った。
 澄子にも、異存のあるはずはなかった。
「不二通商は崇禅寺《そうぜんじ》ですから、阪急で、南方の次の駅ですわ」
 と、澄子は言った。
『不二通商』大阪支社は、それほど大きいビルではなかった。真四角な感じの、四階建てである。
 日曜日なので、正門は閉まっている。
 ひっそりしたビルの撮影を終わったとき、
「教えてください。浦上さんが、犯人逮捕は時間の問題と見抜いたのはなぜですか」
 澄子が遠慮勝ちに訊いた。
 浦上はしばしの沈黙の後で、自分の中のものを整理するようにして、言った。
「記憶の彼方《かなた》に消えていた人間が、思いもかけない形で、姿を見せたということです」
「それが、堀井課長ですか」
「何度も言いましたように、ぼくと美津枝さんとの間には、何のつながりもありません。それなのに、ぼくは容疑者として罠にかけられた」
「犯人が一石二鳥を狙ったことは、あたしにもよく分かります」
 澄子は、浦上と並んで崇禅寺駅へ引き返しながら、うなずいた。
「美津枝を殺す動機を持っていて、同時に浦上さんを陥れる可能性がある人、それが堀井課長ですか」
「ぼくを殺人犯に擬した、おかしな工作が、逆に、解決を早めたと言えるでしょうね」
「でも、変ですわ」
 澄子は、崇禅寺駅の小さいホームに立ったとき、つぶらな瞳で浦上を見た。
「そうしたひどいことをする相手を、浦上さんみたいな方が、三日間も思い出さなかったなんて、どうしてですか」
「そう言われると困るけど、何ていうかな、記憶を整理する棚が、全然違っていたのですよ」
「プライベートに交際した相手ではなかった、ということですか」
「いえ、仕事上の、取材関係先も、当然考えてみました。だが、堀井隆生の場合は、ワンクッション置かれていたのですよ」
「浦上さんが取材なさったのは、札幌で人殺しをした弟のほうだったのですね」
 と、澄子が、当然のようにそれを察したとき、焦げ茶色の阪急電車が、小さいホームに入ってきた。
 澄子と浦上は阪急を乗り継ぎ、天神橋筋六丁目《てんじんばしすじろくちようめ》から地下鉄で守口市へ向かった。
『パレス17』がある寺内町は、地下鉄の駅からは少し離れた、京阪電鉄沿いだった。
 混雑する商店街をいくつか横切っていくと、工事中のデパートがあり、目指す賃貸マンションは、保育所の裏手に建っていた。高級ではないが、窓の作りがしゃれていた。白壁の七階建てである。
 浦上と澄子は、一階の管理人室に寄った。
「知りませんでしたよ。高橋さんが殺されたのですってね。昨日、刑事さんが見えました」
 小柄な管理人は、最初からびっくりしたような顔の男だった。
 浦上は型どおりに、取材の質問を進めた。
 焦点は、美津枝が借りていた505号室に出入りしていた男だ。
「そうですね、亡くなられてしまったのだから、隠しておくこともないでしょうが」
 と、管理人は、それでも少し言い渋ってから、浦上と澄子の顔を見た。二年前の入居当初から、男は人目を避けるようにして、美津枝の部屋に泊っていったという。
 塚本るり子の証言は、簡単に裏付けられたわけだ。
 管理人は、びっくりしたような顔でつづけた。
「監視していたわけではないので、詳しいことは分かりませんが、あの男性、月のうち、十日はやってきてたんじゃないですか」
「愛人という印象ですね」
「まあね。そそくさと、隠れるようにして、高橋さんの部屋に出入りしていたのですからね」
 当然なことに、マンション内での美津枝の評判は、よくなかったという。
「人は見かけによらないというのですかね。高橋さんは飛び切りの美人だったし、人当たりもいい、はきはきした感じのいい女性でしたのに、男女の仲だけは別なのでしょうか」
「彼女が不二通商のOLだったことは、ご存じですね」
「もちろんです。入居のときの賃貸契約書にちゃんと記入してもらっています」
 しかし、相手の男がどこの何者なのか、氏名も職業も一切分からない、と、小柄な管理人は言った。
「昨日来た刑事も、男のことを尋ねたでしょう」
「それはもう、しつこいったらなかったですよ」
 管理人が、二年間定期的に505号室へ通っていた男の存在を告げると、年かさのほうの刑事は、根掘り葉掘り突っ込んで尋問してきたという。
 浦上は、宇和島でにじり寄ってきたときの、矢島部長刑事の執拗さを思った。あのごっつい顔のベテランは、ここでも粘りを発揮したのか。
「で、どうしました?」
「いくら問い詰められたって、知らないことはこたえようがありませんや」
 結局、矢島部長刑事たちの聞き込みは、男の容貌をメモするにとどまったようである。
 浦上の見込みどおりになってきた。少なくとも現時点では、男の身元を割り出しているこっちのほうが、松山南署の捜査本部より一歩、先をいっている。これも、るり子という癖の強いハイミスのお陰だ。
 最後に浦上は、男の、問題の容貌に触れ、自信を持って、こう尋ねた。
「どうでしょう、その男は、ぼくと体形が似ていませんでしたか」
 三年前に一度だけ面会した堀井の記憶を思い返し、四日前に、松山港の方角へ逃亡したブルゾンの男の後ろ姿を重ねての質問であったが、これは、予想を裏切らないこたえが返ってきた。
 管理人は言った。
「そう言われてみれば、中背で、記者さんによく似ていますよ。いや、そっくりだ」
 それで、取材は終わった。
 浦上と澄子は、『パレス17』を出た。管理人の前では終始沈黙を守っていた澄子が、重い口を開いたのは、京阪守口市駅の出札口に来たときだった。
「どう考えたって、不倫な関係ですわね。美津枝は、そんな堀井課長との結婚を、真剣に考えていたのでしょうか」
「欺されていたという、塚本るり子さんの指摘が正確でしょうね」
「信じられません。美津枝は、親友のあたしが言うのも変ですが、聡明な女性でしたよ」
「いまの管理人も漏らしていたではないですか。ぼくも、男女関係だけは別だと思います。いままでにも、この種の事件の取材で経験していますが、恋に夢中になって周囲が見えなくなるというのは、決して死語ではありません」
 と、浦上は言った。それは浦上の体験的な実感であり、なぜか、美貌な女性ほど、その被害を受ける率が高いようである。
「美津枝も、何も見えない状態を、二年もつづけたというのですか」
 澄子は口元を引き締めた。
「酷な言い方ですが、破局が訪れなければ、背景が見えてこないわけです。そして、それまでの関係が深ければ、深いほど、破局も悲劇的な結末を迎えます。美津枝さんの場合がそういうことになるでしょうね」
「土佐山田の、美津枝のお兄さんには、いつ、どういうふうにして知らせたらいいのでしょうか」
「ぼくもそれを考えました。すべてのベールが剥《は》がされるのは、堀井隆生に手錠がかけられるときでしょうね」
 殺人容疑で、堀井は明日にでも逮捕されるだろう。それが、このときの浦上の読みだった。
「事件が解決したら、改めて龍河洞へ行くかな」
 と、浦上がつぶやくと、
「そのときは、あたしもご一緒します」
 澄子はぴょこんと頭を下げた。
 浦上はほとんどとんぼ返りで、新幹線の上りに乗った。新横浜駅着十八時十分の、�ひかり222号�。
 浦上は東上する新幹線車中から、谷田の自宅へ電話を入れた。
 
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