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松山着18時15分の死者8-4

时间: 2019-04-27    进入日语论坛
核心提示: 矢島部長刑事と、同行の若手刑事が、淡路警部と別れてビジネスホテルに引き上げたのが、その頃だった。 ビジネスホテルは、関
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 矢島部長刑事と、同行の若手刑事が、淡路警部と別れてビジネスホテルに引き上げたのが、その頃だった。
 ビジネスホテルは、関内《かんない》駅を挟んで、浦上と谷田が円卓を囲む酒場の反対側にあった。
 矢島と若手刑事は、神奈川県警本部から、夜の舗道を歩いて、ホテルに帰った。
 二人とも疲れ切っていた。
 東京や横浜のような大都会に不慣れのせいもあるけれど、午後、羽田空港に着いて以来、それこそ一秒の休みもなく、事件の解明に終始してきたのである。
 夕食をとるときも、堀井の足取り追及がつづいた。
 その結果、少しでも裂け目が生じてきたというのであれば救われるが、立ちはだかる壁は、逆に、厚みを増してくるだけではないか。
「主任、犯人《ほし》は本当に堀井なのでしょうか」
 若手刑事は、四階のツインルームに入ったとき、フロントの自動販売機で買ってきた缶ビールをテーブルの上に置いて言った。
 思い詰めたような口調だった。
「大歩危にいた堀井は松山港へ行くことができないし、松山で殺人を実行したのでは、�ひかり162号�で東京へ帰ってくることができない」
 と、繰り返すつぶやきは、さっきまで神奈川県警の捜査一課で、淡路警部とつづけてきた検討の域を越えなかった。浦上や谷田の吐息と、まったく同質なものだった。
 前提となるデータが同一なのだから、抽出される結論は、事件記者も、ベテラン刑事も変わらない。
「動機は確かだし、指紋も一致した。しかし、アシがないんではなあ」
 矢島はどっかとソファに腰を落とし、缶ビールに手を伸ばした。
 松山南署の捜査本部は、この二人の刑事に対して、次の動きが出るまで、横浜に滞在するよう指示してきた。指示は、もちろん堀井逮捕を含みとしたものだが、時間をかけたからといって、堀井を連行することができるのか、どうか。
「堀井を割り出してきた、ウデのいいルポライターはどういう判断かな」
 意見を聞いてみたいね、と、矢島は言ったが、ベテラン部長刑事としては、これ以上、先を越されたくないのに決まっている。缶ビールを飲む矢島のごっつい横顔に、複雑な表情が浮かんでいるのを、若手刑事は見た。矢島は、宇和島西署で浦上を尋問したことを思い返しているようだった。
 若手刑事も缶ビールに口をつけた。
 しばらく、二人は足を投げ出して、黙って缶ビールを飲んでいたが、やがて若手は、何枚かのコピーを、四角いショルダーバッグから取り出した。
 淡路警部の慫慂《しようよう》もあったが、松山南署が分析し、矢島部長刑事が書き出した列車ダイヤを、谷田を通じて浦上に提示したのは、堀井隆生を掘り起こしてきた功績に対する、いわば、お返しだった。
 若手刑事は、浦上や谷田と同じように�しおかぜ9号�で松山へ向かうルートと、�ひかり162号�で東京へ到着するルート、二枚を引き抜いてテーブルの上に置いた。
「ルポライターは、この壁をどうやって崩すのかな」
 部長刑事のつぶやきは自嘲的なものに変わり、
「やはり、実行犯は別にいるのではないでしょうか。共犯がいなければ、殺人《ころし》は成立しませんよ」
 と、若手刑事は口元を引き締めた。
 矢島は、しかし、共犯説には乗ってこなかった。
 その点は、浦上や谷田の考え方と同じだった。高橋美津枝との、隠れた関係の形から推しても、堀井は、共犯を置くような人間ではない。
(犯行《やま》は、すべて、堀井が単独で立案、実行したことだ)
 矢島は、長い捜査体験の上に立って、それを確信している。矢島はさっき、八重洲の喫茶店で、実際に堀井を尋問したことで、余計、その確信を強めた。
「事件《やま》は殺人《ころし》だぞ。堀井は何があろうと、第三者の力を借りたりはしないよ。あいつはそういう男だ」
 矢島は、手にしたビールの缶を見詰めた。
「主任、堀井がそうした人間であるのは、自分にも見当がつきます。しかし、人を殺すような大事に際して共犯を拒否する完全主義者だとしたら、真犯人《ほんぼし》は、やはり堀井とは違うのではないですか」
 若手刑事のほうは、テーブルに置いた二枚のコピーから目を離さなかった。
「確かに、堀井は、犯人《ほし》としての条件を、すべて備えています。でも、その向こう側に、堀井とは無関係な、もう一人の見えない犯人がいるのではないでしょうか」
「あのルポライターと同じ体型の男がもう一人いると考えるのかね」
「浦上さんの取材日程を聞き出した男の顔は、だれも見ていませんよ」
「そんなことを言えば、彼を尾行して、彼の指紋が付着した分県地図を買ったり、王将駒を失敬した人間も、特定されているわけではない」
「被害者《がいしや》は、あれだけの美人です。何度も話が出たように、親しい男性が、他にいてもおかしくありません」
「土壇場へきて、ひっくりかえるっていうのか」
 矢島は、缶ビールをテーブルに戻した。
 堀井という男が、どんなことがあっても共犯を用意する性格ではなく、なおかつ、殺人現場へ立つことができないとあっては、そういう結論になろう。
 堀井と同じように、美津枝と深い関係を持ち、堀井同様、浦上に恨みを抱く男。しかも、体型まで共通した男が、もう一人登場するなどという偶然は考えにくい。
 だが、何としても堀井のアリバイが崩れないのなら、推理は、そうした移行になろうか。
 レンタカーから採取された堀井の指紋は、一時棚上げ、ということにならざるを得まい。
 二人の刑事の話し合いが、そんな具合に行き詰まった頃、浦上と谷田も、複雑な酔いを深めていた。
 酒場に腰を据える浦上と谷田も、結局は、矢島部長刑事たちと同じような迷路に迷い込んでいたのである。
 浦上は、やがて酒場を出るとき、
「複数の男性関係か」
 と、高知空港で澄子が漏らしていたつぶやきを思った。
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