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松山着18時15分の死者9-1

时间: 2019-04-27    进入日语论坛
核心提示: 翌九月五日、火曜日。 松山南署の捜査本部では、改めて、堀井隆生の関係者に接触する方針を打ち出した。 堀井の妻の伯父に当
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 翌九月五日、火曜日。
 松山南署の捜査本部では、改めて、堀井隆生の関係者に接触する方針を打ち出した。
 堀井の妻の伯父に当たる、『不二通商』の常務、同僚である同じ営業課長の吉村《よしむら》、伊藤《いとう》、吉田《よしだ》の三人。
 そして、高橋美津枝が三ヵ月前まで働いていた大阪支社の関係者。
 内偵には、もちろん神奈川県警も協力することになっており、『毎朝日報』横浜支局も、他社に嗅ぎ付けられないよう、飽くまでも潜行した取材態勢で、臨むことになった。
 一方、浦上伸介は、大阪の菊池澄子に連絡を取り、東京発十二時の�ひかり25号�で四国へ向かった。
 岡山からは、快速�マリンライナー39号�に乗り継いだ。
 結局、浦上が瀬戸大橋を渡るのは、この日が最初、ということになる。
 内海は秋晴れで、波もなく静かだった。
 先頭のグリーン車は空いていた。浦上は、二人掛けの座席を窓側に回した。
 瀬戸大橋からの風景は大きい。無数の島を見下ろす内海の眺望を満喫して、坂出に到着したのが、十六時五十分。東京駅から四時間五十分である。四国は近くなった。
 坂出から十数分で高松だった。
 高松は宇和島と同じように、行き止まりの櫛形《くしがた》ホームだ。浦上は五日前の夕方、宇和島で感じたように、
(まさに、終着駅だな)
 と、つぶやいていたが、いま、旅情に浸る余裕はなかった。
 浦上は、堀井が主張する足取りを、そのとおり踏襲するために、再度四国へ渡ってきたのである。
 終着駅で下車した乗客は、全員が一方に向かって、ホームを歩いて行く。改札口は、高松港側である。
 改札口周辺には、ずらっと、何軒もの飲食店とか売店が並んでいる。
 人込みの向こう側、改札口を出たところに、澄子が立っていた。澄子は紫系統の、細かい柄物のブラウス・スーツだった。
 澄子のほうが先に、浦上を見つけた。澄子は人なつこそうに、小さく手を振った。
 高松での待ち合わせを提案したのは、澄子だった。叔父夫婦が、高松市内の東浜町に住んでいるのである。
 昨夜遅く、浦上が浪速区のマンションへ電話を入れると、
「あたしも、ご一緒させてください」
 と、澄子は言った。
 高知空港とか、大阪の守口で別れる際に交わした約束の、実現である。澄子は、勤め先は年休をとり、高松の叔父の家を足場にして、浦上への協力を決めた。
 そうして、一足先に、大阪から高松入りしていたのである。
「浦上さんの今夜のお泊まりは、ご希望どおり、高松アストリアホテルの、シングルを予約しておきました」
 澄子は浦上を迎えると、最初にそれを告げた。いかにも、行動派の澄子らしい手速さだった。
 いかなる意図が秘められているのか、堀井が利用しようとして、宿泊しなかったホテル。
「アストリアホテルは、玉藻公園の手前ですから、駅から歩いても二、三分ですわ」
 と、澄子は先に立って、駅の構内を出た。打ち合わせは『高松アストリアホテル』のロビーで、と、最初から決めていたようである。
 澄子の、そのてきぱきとした進行は、初対面以来、浦上に好印象を与えている。
 ターミナル駅は、勤め帰りの人たちで込み始める時間だった。
 澄子と浦上は、駅前広場の花時計を半周して、十字路に向かった。
 路傍に何人もの靴みがきがおり、
「大将、サービスしますよ」
 と、声をかけてくる。
 最近、東京や横浜では滅多にお目にかかることのない、路傍の靴みがきだった。
 浦上は、信号待ちで、十字路で足をとめたとき、昨夜来解消されない疑問を、澄子に伝えた。
「美津枝さんを絞殺した男は、堀井以外に考えられません。しかし、昨夜も電話で言ったように、どうしても、二重のアリバイが崩れないのです」
 ひょっとして、本当の犯人は別にいるのではないか。刑事たちの間でもそうした意見が出ていることを浦上は言い、
「実はぼくも、堀井は犯人ではないのではないかと疑心暗鬼になっているところです」
 と、遠くに目を向けた。不本意ながら、本音だった。
 東京からの車中、ただ一点のみを凝視してきたのに、一向に、なぞは解けない。判然としない渦は、次第に、浦上の内面で大きくなってくるばかりだ。
「思い出してください。美津枝さんが、堀井以外のどんな男性と交際していたのか、小さいヒントでもいい、思い浮かぶことはありませんか」
「高知空港で言いましたように、美津枝が、何人かの男性とおつきあいしていたのは事実だと思います。でも、会社で机を並べていた塚本るり子さんの話が、正確なのではないでしょうか」
「関係が深かった男性は、堀井一人、と修正しますか」
「美津枝が社会人になってからは、同僚の塚本るり子さんのほうが、ずっと身近にいたわけです。あたしよりも、塚本さんのほうが詳しく美津枝を観察していたのは、浦上さんが取材されたとおりですわ」
「そうですね」
 浦上もうなずいた。
�観察�がハイミスの好奇心に発したものであるにしろ、二年間、るり子が、美津枝の行動をじっと注意していたのは事実だ。
「あ、ちょっと」
 浦上は信号が青に変わったとき、十字路を渡ろうとする澄子を、慌てて、引きとめていた。
 大歩危駅を中心とする、もっとも重要な追跡調査は、明日の午後からの開始となるが、堀井の主張を、同時間帯で追及することが、今回のテーマなのだ。
 と、すれば、いまこの場で済まして置くことも可能な事項があるのに、浦上は気付いた。
 これは、本来なら、大歩危からL特急�しまんと6号�で到着後にチェックするのが、堀井の主張に沿った順序であるけれど、取材順序を逆にしても差し支えあるまい。浦上が、ふと気付いたのが、そのことだった。
 そう、取材先では、いついかなる変化が出来しないとも限らない。着手ができるものは、さっさと片付けて置くのが、ルポライターの基本姿勢となる。
 浦上は思い付きを、早速実行に移すことにし、
「一応当たって置きましょう」
 信号機の下で踵《きびす》を返した。
 あの日、�しまんと6号�で高松駅へ到着した堀井は、降りたホームで夕刊各紙を買い、『高松アストリアホテル』と『不二通商』東京本社へ、ホームから電話をかけたことになっている。
「�しまんと6号�の高松着は十七時十分だから、ちょうどいまホームに入ったところでしょう。順序は逆だが、取材を始めてみます」
 浦上は澄子を促した。
 駅へ戻って、浦上が二枚の入場券を買うと、澄子は、
(週刊誌の取材って、こんなにまでするのですか)
 といった顔で、切符を受け取った。
 改札を通ると、四両連結の�しまんと6号�はすでに到着しており、乗客は全員が下車した後だった。
 浦上は、到着ホーム5番線のキヨスクへ行った。そこに、予想もしない突破口があった。
 浦上が夕刊を求めると、
「右端のがそうです。自分でお取りください」
 と、中年の売り子がこたえた。
 新聞入れに差してあるのは、岡山で発行している山陽新聞だけだった。
 全国紙は売れ残った朝刊が、そのまま並んでいる。この時間、全国紙の夕刊は、まだ高松へ届いていないのか。
 堀井が大歩危から乗車してきたと主張する�しまんと6号�は、何分か前にホームに入っている。
 それなのに、全国紙の夕刊は、まだ一紙も売られていない。あの日も、販売されるのが遅かったとしたら、問題が生じてこよう。堀井は十七時十五分と十八分に二本の電話をかけ、十七時二十七分に�マリンライナー44号�で高松を離れた、ということになっているのだから。
 そう、堀井は、その主張どおり、�しまんと6号�を降りたその場で夕刊を買い、『和平興産』社長の死を知ったのでなければ、十七時十五分に『高松アストリアホテル』へのキャンセル電話がかけられない。
 しかも、社長の死を報じたのは全国紙のみで、地元紙が一行の記事にもしていないことは、『毎朝日報』横浜支局が確認済みだ。すなわち堀井は、堀井自身が述べているとおり、全国紙の夕刊を手にしない限り、『和平興産』社長の死を知ることはできないのである。
 浦上はホームの時計を見た。十七時十九分だった。
 堀井が電話をかけたという時間は過ぎている。
 それなのに、キヨスクに夕刊はない。
「お尋ねしますが」
 と、浦上が、中央各紙の夕刊が届く時間を確かめると、売り子は怪訝《けげん》な顔をした。
「お聞きしたいのは、全国紙の夕刊は、いつもこの時間には、まだ配付されていないのかどうか、ということですが」
 浦上は先方のこたえがないので、急《せ》き込んだように、質問を重ねた。
「具体的には、六日前のことを知りたいのですよ。八月三十日の水曜日です。あの日は、�しまんと6号�が到着したとき、もう夕刊は売られていましたか」
「お客さん、何を言っているのですか。うちで売っている夕刊は、そこにある山陽新聞だけですよ」
「あ、これは失礼。すると、各紙をそろえているのは、改札のほうの売店ですか」
 浦上は向こうの大きいキヨスクに、視線を投げた。
 ターミナル駅とはいえ、地方都市なので、売り場も限定されるのだろう。浦上はそう考えたが、キヨスクの売り子は、質問の意味が解せないといった面持ちで、こたえた。
「お客さん、香川の四国新聞は夕刊がないので、高松で売っているのは山陽新聞だけですよ。全国紙は、朝刊しか入っていません」
「何ですって?」
 浦上は、思わず背後の澄子を振り返っていた。澄子も、
(そう、四国に全国紙の夕刊は配達されていません)
 というようにうなずき、
(それがどうしたのですか)
 と、不審な顔をしている。
 堀井がホームで夕刊を買ったという主張は、言ってみれば、瑣末事《さまつじ》だ。澄子には説明していなかった。
 だが、この些細《ささい》なことが、重要な意味を持ってきた。
 浦上はキヨスクを離れると、タウンページで調べて、『毎朝日報』高松支局へ電話で問い合わせた。
「ええ、そうですよ。全国紙の夕刊は、四国四県のどこにも入っていません」
 支局の返事は明快だった。
「それはどうも」
 と、礼を言って受話器を戻したとき、浦上の内面に広がっていた判然としない渦、
(堀井は犯人ではないのではないか)
 という疑心暗鬼は、きれいに拭い去られていた。
「堀井のアリバイは偽物です。間違いなくあいつが、美津枝さんを絞殺した、真犯人です!」
 浦上の声には、無意識のうちに力が籠もっていた。
 堀井は高松駅のどこで、(四国では販売されていない)夕刊を見たというのか。高松にいたのでは、全国紙の夕刊を手にすることができない。
 そこで示されるこたえは一つだ。
「あの男、あの日の夕方、高松にはいなかったってことでしょう。そう、�しまんと6号�になど乗ってはいなかったことになります」
 浦上は澄子を見詰めて口走ると、もう一度、構内のカード電話の前に立った。
 あの夕刊の記事は、�旅の予定変更�を周囲に納得させる力を備えている。そこで堀井は、事前に用意していたであろう�理由�に代えて、『和平興産』社長の死を、利用したのに違いない。
 それは、矢島部長刑事も考えたことであるし、昨夜、浦上と谷田実憲が問題にした点でもあった。
 高松駅ホームからのUターンは、(不二通商の宿直員を東京駅ホームまで呼び付けたことと同様)いかに工作の匂いが強かろうとも、堀井が主張するアリバイの、重要な基点となっていたのである。
 その基点が、取材第一歩にして、早くも崩れたのだ。
 浦上が、興奮を隠そうともせずにプッシュしたダイヤルは、神奈川県警記者クラブ『毎朝日報』の直通ナンバーだった。
「先輩、八月三十日付山陽新聞の夕刊記事を確認しながら、四国に、全国紙の夕刊が配付されていない事実を気付かなかったのですか」
 興奮は、そんな第一声となった。
 だが、そのこと自体は、営業畑でもない社会部記者を責めるのは酷だった。おまけに、四国は、横浜支局が属する東京本社ではなく、大阪本社の管轄なのである。
「夕刊の配達されない市町村が、日本各地にあることは、無論承知している。でも、四国の玄関口高松がそうだったとはねえ」
 記者歴十年余の谷田も、意外そうな口調だったが、�見落とし�に悪びれた気配はなかった。
 谷田にとってもまた、浦上同様、疑心暗鬼のきれいに拭い去られたことのほうが大きかったのである。
「堀井らしく、気が利いたつもりの、�予定変更�の口実が、結局壁に罅《ひび》を入れたか」
 谷田も早口となり、
「高松に夕刊がなかったことは、やつの主張するアリバイが偽物であることの決定的な証明となった。それはそのとおりだろうが、じゃ、あいつはどこで夕刊を見たんだ?」
 と、畳みかけてきた。
 浦上も、それを考えたところだった。全国紙の夕刊を買ったのが、松山であるなら、おぼろげながら、輪郭が見えてきたと言えよう。
 しかし、肝心の松山も、高松同様、夕刊が入っていないというのでは、今度は、『和平興産』社長の急死を夕刊で知ったことが、現場不在の証明になってくるかもしれない。
 高松に、全国紙の夕刊が配付されていないことを知らなかったのは、堀井の、うかつな読み違いであろうが、
「アリバイ二重工作は、別な形で生きてくることになるな」
 と、谷田は言い、
「それにしても、こうした発見に出遭うとは、スタートラインから幸先がいいじゃないか。当然、地元の美女を同行しての取材なんだろうね」
 と、高い笑声を返してきた。
 現地に立つ浦上よりも、谷田の語感のほうにゆとりが感じられるのは、これは、性格の違いというものだろう。
 浦上は横浜への電話を終えると、澄子の案内で、改めて、『高松アストリアホテル』へ向かった。
 駅を背にして、駅前広場の左手が高松港である。
 十字路で踵を返したときから、それほど時間が経ったわけではないのに、さっきとは違って、内海は完全な夕景に変わっている。
 夕日に彩られる波止場に、JR高速艇が、白い船体を見せていた。
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