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異域の死者2-4

时间: 2019-04-27    进入日语论坛
核心提示: 宮本は、妻を殺されて、確かに動揺している。 だが、動揺はあらわにしても、悲しみの表情が希薄であることを、中年の刑事は見
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 宮本は、妻を殺されて、確かに動揺している。
 だが、動揺はあらわにしても、悲しみの表情が希薄であることを、中年の刑事は見抜いていた。
 村松夫婦がそうであるように、宮本夫婦もまた、最後の最後の場へ追い詰められている。妻の突然の不幸を知らされても、涙を流す状況ではなかった、ということだろうか。
 しかし今日まで、宮本は淑子を離縁しなかった。妻の自由を束縛することが、宮本なりの怒りの形だったのだろうか。
 日本海に面した鳥取で生まれ育ったという宮本は、
「村松のやつ!」
 と、憎しみを込めて口走るときでさえ、一種、純朴な面を感じさせた。
 いま、宮本の心境も複雑だろう。
 刑事は、しばしの沈黙のあとで、口調を改めた。
「奥さんが、昨日上野へきた心当たりは、本当に何もないわけですね」
「ありません。どうして、横浜から東京へきたのか、それは犯人に聞くしかありませんね」
 宮本はメタルフレームの眼鏡を外し、ハンカチでレンズをふいた。眼鏡をとると、一層柔和な顔になった。
「奥さんが昨日アパートを出たのは、何時頃か、分かりますか」
「知りません」
 宮本の話し方は投げやりだった。ことばの端々に、愛を欠いた夫婦の冷たさがにじんでいる。
 しかし、宮本が淑子の外出時間を知らないのは、冷戦だけが原因ではなかった。
「ぼくは、鳥取本社へ出張していたのですよ」
 と、宮本は、刑事の新しい質問にこたえて言った。
『日東カー用品』鳥取本社への出張は、九月二十九日木曜日から、十月一日の土曜日までだった。
「あなたは、仕事が終えても、すぐに横浜へ帰らなかったのですか。あ、そうか、あなたの実家は鳥取でしたね。ご両親の元へ寄られたのですな」
「はい、出張中の三日間は実家に泊まりましたが、二日の日曜日は違います」
 京都府下に住む、高校時代の旧友を訪ねた、と、宮本は言った。
 夫婦関係は好転するどころか、泥沼にはまっていくばかりだった。くさくさした宮本は、帰りに途中下車して、旧友宅に一泊。
 昨日の月曜日は年休をとり、夕方、横浜へ帰ってきたという。旧友の住所は、京都府|船井《ふない》郡|園部《そのべ》町だった。
「ですから、昨夜、淑子がアパートに戻らなかったことは承知していますが、ぼくが出張中の、二十九日から二日までの行動は何も知りません」
「四日も留守にしていたのに、鳥取から横浜のアパートへ、電話一本入れなかったのですか」
「刑事さんの前ですが、ぼくと淑子は、もうそんな夫婦ではなかったのですよ」
「これは、念のために伺うのですが」
 刑事は、宮本の体型が犯人に共通していることを意識し、犯行時間、昨十月三日の午後六時五分頃、宮本がどこにいたかを尋ねた。
「東海道新幹線に乗っていました。新横浜着が午後六時半頃でしたから、六時過ぎというと、�ひかり号�は熱海辺りを、通過していたでしょうか。想像もつきませんでしたね、その頃、淑子が刺殺されていたなんて!」
 実行犯は、真理の愛人である『浅野機器』の手塚常務に間違いない、と宮本は繰り返した。
「でも、何も殺すことはない。ね、そうでしょう。こうなったのも、元はと言えば、すべてあの男、村松のせいです」
 その最後の一言には、冷え切っていたとはいえ、生命を奪われた妻に対する夫の、情のようなものが感じられた。
 しかし遺体の引き取りについては、素直に応じなかった。
「淑子の家族とも相談して、出直してきます」
 宮本はそう言い置いて、捜査本部を出て行った。
 その長身の後ろ姿を見送って、
「浮気なかみさんに対する憎悪と嫉妬、となれば、あの亭主にも、殺人《ころし》の動機はあるね」
 清水部長刑事は、傍《かたわ》らの若手刑事に向かってつぶやいていた。
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