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異域の死者5-8

时间: 2019-04-27    进入日语论坛
核心提示: 繁華街からそれほど離れていないのに、人気の少ない町だった。 雑居ビルが多いせいもあるが、一ブロック先が、寿町などの簡宿
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 繁華街からそれほど離れていないのに、人気の少ない町だった。
 雑居ビルが多いせいもあるが、一ブロック先が、寿町などの簡宿街のためでもあろうか。一般の民家とか、商店の少ない通りだった。
 浦上は街路樹《プラタナス》の下を歩いて行った。
 擦れ違う人はほとんどいなかった。舗道を行く車の動きだけが激しい。
 そうした町を反映してか、雑居ビルは建坪が広く、部屋数も多いのだが、どこか寒々とした玄関だった。
 低い四階建てのせいか、乾いた感じのビルにはエレベーターがなかった。
 浦上は入口横の表札を確認した。各階とも貸しオフィスのようだった。四階の一番奥に、『浅野機器』の社名があった。
 浦上は一段ずつ、四階への階段を上がった。町並みもそうであったが、内部にも活気がなかった。
 それは、たまたまこうしたビルに分室を借りたのに過ぎないのであろうが、なぜか、同僚たちから背を向けられた村松に、ぴったりな雰囲気のようでもあった。
 仙台支社から横浜本社へ出張してきた村松は、この分室に閉じ籠もって、執務をすることになっていたのか。
 階段を上がり切った浦上は、長い廊下を歩いて、一番奥の部屋に行った。
 分室には、十人ほどの男女社員がいた。ちょうど、昼休みに入ったところだった。昼食へ出ようとしていた三人の男子社員が、お互い顔を見合わせるようにして、浦上の質問にこたえてくれたが、内容は、本社ビルの主任の説明と全く同じだった。
「村松課長はあの日の午後三時頃、どこかへ外出されましたか」
 浦上は最後に訊いた。
�伝言�電話が村松自身の工作であるなら、当然、外部の電話を使用したはずだ。あのような電話を、同僚たちの前でかけるわけにはいかない。
 しかし、午後三時の外出は否定された。
「村松課長は、昼食に出た以外は、一歩も机を離れませんでしたよ。間違いありません」
 若い三人の社員は口をそろえて言った。
「なるほど。そして、村松課長は、五時の終業時間を待って、分室を出て行ったわけですね」
「はい」
 と、こたえたのは、三人とは別の、女子社員だった。ドアの近くに机を置く彼女は、終業時のベルを押す係だった。
「あの日、村松課長は、よほどお急ぎの様子でした。十分前には机の上の書類を片付け、五時になってあたしがベルを押すと同時に、飛び出して行かれました」
 それは、すでに村松本人から聞いている通りだった。
 やはり分室に収穫はなかった。谷田が淡路警部との談合を終えるまでの、時間待ちに過ぎなかった。
 浦上は廊下へ戻ると、せっかくだから、分室のドアを撮っておくことにした。
 そうして、カメラのシャッターを押したとき、
「待てよ!」
 浦上は、自分に向かって、声を出してつぶやいていた。
(村松は真犯人《ほんぼし》ではないぞ!)
 つぶやきは、そんなふうに変わって、浦上の内面へ沈澱した。
 浦上はカメラをショルダーバッグにしまうと、腕時計を見た。
 十二時十六分だった。
 浦上はショルダーバッグをずり上げると、突然、雑居ビルの中廊下を走り出していた。一階までの階段を駆け下り、街路樹の下を走った。
 いくつかの十字路を通過し、車道を横切って関内駅に駆け込むと、キヨスク横の赤電話を取った。もう一度腕時計を見ながらダイヤルした先は、県警本部記者クラブだった。
 すぐに、キャップの谷田が出た。
「おい、うなぎでもおごってやろうと思っていたのに、昼食をずいぶん待たせてくれたじゃないか」
 と、大きい声を出す谷田を制して、浦上は言った。
「先輩、村松は淑子を殺すことができません」
「何を見つけたんだ」
「今日は、二回も、時間の測定をやらされましたよ」
「この電話、関内駅からかけているんじゃないのか」
「しかしここは伊勢佐木町側ではなくて、反対の、市役所に近い方です」
「何でそんなところにいるんだ」
「あの日、村松を根岸線に乗せるとすれば、こっちの改札口の方が、ずっと近いからです」
 と、浦上は、扇町の先にある分室の存在を、谷田に伝えた。
「村松は五時に会社を飛び出したわけですが、それは本社ビルではなくて、分室の方だったのですよ」
「分室じゃ、都合が悪いのか」
「ぼくが、この赤電話を取ったのは、十二時三十三分でした。分室に近い方の改札口まで、精一杯走ってきても、十七分かかっています」
 浦上の内面へ沈澱した発見が、それだった。本社ビルからなら一分の関内駅だが、分室の方は、はるかに離れている。
 雑居ビルにはエレベーターがないので、四階から階段を下り、信号がある十字路を、何と七個所も越えなければならないのである。
「ぼくはいま、割りとスムーズにやってきました。信号のない場所を選んで、道路を横断したりもしました。しかし、本当に測定しなければならないのは、午後五時過ぎです。夕方では道路も混雑するでしょう」
「そりゃそうだな。信号を無視して、広い車道を走り抜けることはできない」
「夕方で七つの信号にひとつずつ引っ掛かったら、関内駅へくるまで、どのくらいかかると思います?」
「順調にいって十七分か」
「十七分を、それ以上短縮することは、まず、絶対に無理です」
「それにしても、村松も嫌なやつだな。同じ本社でも、そんな分室があり、そっちへ詰めていたならいたと、最初に打ち明けてくれればよかったんだ」
 谷田は勝手なことを言った。
 しかし、いずれにしても、最短でも十七分かかるのでは、村松は容疑の圏外へ去ったことになる。
 関内—上野間は正味四十八分だから、待ち時間なしで上り電車に飛び乗ったとしても、上野駅1番線ホーム到着が、午後六時五分になってしまう。
 それは犯人が、不忍池から逃亡した時間だ。
 しかも、これは、実際には不可能といっていい足取りなのである。夕方の信号待ちなどが、正確に加算されていないのだから。
 本当は、もっと時間がかかるだろう。たった十七分、という意味では些細《ささい》だが、重大な発見だった。
 この十七分の壁は崩れない。正確に待ち時間などを加算して、壁が厚くなることはあっても、薄くなりようはないのである。
 村松俊昭は、犯人ではない。
「村松は五時ジャストに会社を出て、関内駅から地下鉄を利用したと言ってたな」
「はい。高島屋へ着いたのは、五時半を過ぎていたという主張です」
「その五時半過ぎを、見落としていたね。こうなってみると、五時半を過ぎていたというのは、意味のある発言だ」
「そうでした。起点が本社ビルなら、横浜駅西口へは、五時半前に到着していなければなりません」
「きみのいまの実験から推しても、村松は、うそをついてはいなかったことになるか」
「妙な形で、アリバイが裏付けられてしまったものです」
「手塚久之の不在証明も、絶対だ。一課の捜査結果を、詳しく話そう」
「うなぎなら、相生町《あいおいちよう》の店が、うまいってことでしたね」
「今更《いまさら》、ゆっくりうなぎを食ってるわけにもいかないだろう」
「宮本信夫ですか」
「淑子の葬式は何時からだったかな。どっちにしろ、急いで瀬谷へ行かなければなるまい」
 電話を伝わってくる谷田の声が、また高くなっていた。
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