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異域の死者7-3

时间: 2019-04-27    进入日语论坛
核心提示: 浦上は、長い市外電話を終えて、谷田が待つ喫茶店へ戻った。 浦上は成瀬とのやりとりを報告すると、コーヒーの追加を注文し、
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 浦上は、長い市外電話を終えて、谷田が待つ喫茶店へ戻った。
 浦上は成瀬とのやりとりを報告すると、コーヒーの追加を注文し、キャスターをくゆらしながら、ショルダーバッグから時刻表を取り出した。
「船岡から京都まで、一時間十七分。この普通列車の中では、工作のしようもないでしょうね」
 浦上は駅名の「船岡」と、発車時刻の「十四時三十二分」にアンダーラインを引いて、谷田に見えるようテーブルの上に置いた。
「一点、気に入らないことがあるな」
 谷田は首をひねったが、それは鉄道ダイヤに関してのことではなかった。
「宮本はどうして、沢歩きだか、川歩きだかしたことを、オレたちに言わなかったのだろう?」
 独白のようなつぶやきだった。
「宮本のあの話し方では、成瀬の家を出たのは、午後になってからの乗車間近で、船岡駅へ直行した感じだったではないか。違うかね」
 そう言われてみれば、そんな感じもする。
「でも、それはこの際問題とはならないでしょう」
 と、浦上は谷田の顔を見た。
「宮本は要点だけを、こたえたわけですから、質問もされないのに、少年時代から好きだったという沢歩きを、特別口にすることもなかったわけです」
「ま、それはそうだ。どっちにしろ、十四時三十二分の出発は、この通りだろう。その間、船岡で、何かが操作できるわけでもないしね」
 谷田はいったん口に出した疑問を自ら訂正し、改めて時刻表に見入った。
 そして、またつぶやくような口調になった。
「オレは乗ったことないが、この列車は、途中、嵯峨《さが》とか二条《にじよう》にとまって、京都へ着くのか」
「先輩、何か発見したのですか」
「京都の地図は持ってないだろうな」
「必要なら買ってきましょうか」
「終着京都まで行かず、京都市内へ入ってすぐ、嵯峨辺りで途中下車ってのはどうだ」
「何をするのですか」
「嵯峨なら、京都駅より二十五分早く着くだろ。そこで、大阪空港までタクシーを飛ばすって手があるんじゃないか」
「宮本は新幹線ではなくて、飛行機で、東京へ先回りですか」
 浦上の口調が思わず引き締まると、谷田は畳みかけてきた。
「時間短縮に、空路は常識だ」
「まずは、京都市内から、大阪空港までの所要時間か」
 浦上は、市内—空港間の、交通案内ページを開いた。京都駅南口—大阪空港間は、路線バスで五十五分、と出ている。
 それを京都より手前の駅で降りて、タクシーを利用することで、どのていど時間を浮かすことができるか。
 これは、旅行社に当たるのが近道だ。
「よし、横浜支局へ出入りしている業者に聞いてみよう」
 谷田は気軽く腰を上げた。
 今度は遠方ではないので、喫茶店の中のピンク電話で済ませた。
 谷田は二分ほどで、テーブルに引き返してきた。苦笑しながら言った。
「土地鑑がないってのは、しようがないもんだな、山陰本線の途中駅で降りると、かえって時間がかかるそうだ」
「結局、終着まで行くのが、早いわけですね」
「京都駅八条口から、タクシーで五十分ということだ」
「山陰線が到着するのは1番線ホームだから、八条口まで、急いで十分かな」
「ということは、正味一時間」
「京都着が十五時四十九分。一時間加えると、大阪空港に到着するのが、十六時四十九分ということになりますね」
「で、どうなる?」
 谷田は時刻表を指差し、航空ダイヤのチェックを浦上に命じた。顔に、余裕があった。
 確かに、ジェット機は飛んでいる。大阪空港発十七時という、ぴったりの空路�JAL122便�。
 しかし、浦上の声は、一転暗いものに変わっていた。
「先輩、こりゃどうしようもありませんよ」
「十一分あれば、搭乗手続きは何とかなるだろう」
「そりゃ、新幹線よりジェット機の方が速いですよ。でもねえ」
 出発時間はぴったりでも、東京着が十八時なのである。これでは飛行機を降り、羽田《はねだ》空港のゲートを出るか出ないうちに、不忍池の殺人《ころし》は完了してしまっている。
「ほかにはないのか」
「たとえば、大阪空港へ行く、予想もしないルートですか」
「そういうこと。空港到着を早めれば、搭乗できる便。それがあるなら、京都へ行って実地検証だ」
「いやあ、無理ですね」
 浦上は出発時間を確認してから、時刻表を谷田に見せた。
�JAL122便�の一つ前の東京行きは、�ANA30便�であり、これは大阪発が十五時三十五分だった。
 谷田が思い付きで口を滑らしたように、京都—大阪空港の所要時間を、常識では考えられない方法で短縮することが可能だったとしても、十五時三十五分発では駄目だ。宮本を乗せた上り列車は、まだ京都に到着していない。
「船岡発十四時三十二分は、終着まで、特急に追い抜かれることもないんだな」
 谷田はあきらめ切れないように、もう一度、山陰本線のダイヤを指でたどった。
 途中駅で、特急か急行に乗り換えることができれば、推理の構築も変わってくる。京都到着が早まれば、空路ではなく、そのまま鉄道(新幹線)乗り継ぎの手段を、考え直すことも可能だろう。しかし、そうはいかないのである。
「先輩、宮本はどこを、どう帰ってきたのでしょうか」
「この壁を崩さない限り、警察《さつ》だって手の出しようがない」
「ともかく物証のない事件《やま》ですから、宮本を何度捜査本部へ呼んでも、らちは明きませんね」
「だが、真犯人《ほんぼし》は宮本だ」
 谷田は自分に言い聞かせるように、繰り返した。
 すでに裏付けが取れた手塚や村松のアリバイと違って、宮本の方は、流動的な要素を残している。
 三時間半の持ち時間と、福島産の鳥取みやげ。残された一人宮本だけが、犯行現場に立てる可能性と、灰色の疑惑を、深めているのである。
 疑惑は、浦上と谷田が共に感じたように、宮本自身の物腰からも、十二分に窺えるのだ。
「おい、成瀬って旧友に、肝心なことを聞き洩らしているぞ」
 谷田は、ふいに顔を上げた。
「あの梨が、なぜ福島産であったのか。この疑問をひとまずおけば」
 と、谷田は言った。
「宮本は鳥取のみやげと称して、松見アパートの家主に二十世紀梨を届けたんだ。事実鳥取みやげであるなら、成瀬の家に泊まったときも、パックのかごを持っていなければならない」
 指摘されてみれば、その通りである。宮本が成瀬宅へ一泊したとき、そのみやげがなかったとしたら、問題は着実に、一歩前進することになる。
 その点を確認しなかったのは、迂闊《うかつ》だ。浦上はさっと立ち上がっていた。
 喫茶店を出ると、小走りに戸塚駅まで行き、さっきのカード電話に飛び付いた。
 成瀬は、二度の電話取材に対して、億劫《おつくう》がらずにこたえてくれた。
「宮本は、ぼくんところへのみやげとして、二十世紀梨をくれましたが、ほかには梨のかごなど持ってはいませんでしたよ」
 成瀬のことばは明快だった。
 宮本は、身軽な旅装だった。成瀬宅へのみやげを別にして、所持していたのは、薄いアタッシェケースだけだったという。
 三日間の鳥取出張といっても、実家に寝泊まりしていたので、着替えなどは必要としなかったのだろう。
「宮本さんは、アタッシェケースのほかには、何も持っていなかったのですね」
「ええ、ほかには黒いコートを手にしていましたね」
「黒いコート?」
 池畔から逃亡する犯人は黒っぽいコートを着ていた、と、目撃者たちは口をそろえている。
 コートは返り血を避けるための準備工作ではないか、と、捜査本部では見ているわけだが、これは思わぬ証言であり、決め手になりそうだ。宮本に対する疑惑が濃くなってくる。
「黒いコートですか」
 電話を切るとき、無意識のうちに、浦上の声が高くなっていた。
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