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異域の死者8-5

时间: 2019-04-27    进入日语论坛
核心提示: 東京行きの東海道新幹線に揺られながら、上野行き東北新幹線の分析がつづく。「先輩、このルートでは、上野駅21番線ホーム到着
(单词翻译:双击或拖选)
 東京行きの東海道新幹線に揺られながら、上野行き東北新幹線の分析がつづく。
「先輩、このルートでは、上野駅21番線ホーム到着が、十八時なのですよ!」
 十八時には、上野駅地底ホームではなく、地上の公園、不忍池にいなければならないのである。
 地底ホームから殺人現場の池畔まで、全速力で走っても、十数分は必要だ。
 アタッシェケースとパックの梨をあずけるために、途中、ロッカーにも立ち寄らなければならない。
 すると、どう計算しても、十七時四十分には、上野駅新幹線ホームへ、到着していなければならないのである。
 十七時四十分が、タイムリミットだ。わずか二十分の相違とはいえ、この場合は、天と地の開きがある。
「福島までは、こっちの読み筋通りに運ばれてきたんだ。二十分ぐらい、何とかならんのか」
「ちょうどいい列車が、ここにあることはあるのですがね」
 浦上は時刻表を突き出した。
 まさに、タイムリミットの、十七時四十分に、22番線ホームへ滑り込んでくる新幹線があった。�やまびこ16号�だ。
 これは福島発車が、十六時十五分となっている。在来線の福島到着は十六時十四分。
「おい、ほんのちょびっとだが、福島で�乗り換える時間�があるな」
「本気ですか。一分ですよ」
「在来線の福島到着が、�やまびこ16号�発車の後なら論外だ。しかし、たとえ一分にしろ、在来線到着の方が早い。そこに、何か仕掛けられないか」
 谷田は真顔だった。
 だが、標準で九分と明記されている乗り換え時間を、いくら何でも、一分に短縮することは不可能だろう。
 今朝早く横浜を発ったとき、推理の中心に据えられていたのは、�京都�だった。�京都�を覆っていたなぞは、無人駅との遭遇で消えた。
「行きの�京都�が、帰りは�福島�に変わったか」
「福島が渦の中心にくるとは、考えもしませんでしたね」
「先行の特急列車に追い付く、アリバイ崩しをやったことがあったな」
「この場合は、それこそ絶対に不可能ですよ。福島には空港がありません。空路が駄目なら、地上でもっとも速く、かつ正確なのは新幹線です。しかし、この場合は、先行も後続も、同じレールの上を走る、同じ�やまびこ�なのですよ」
「また�同じ�か。�同じ�である点に、船岡みたいな、おかしなトリックがあるのかもしれないぞ」
「�やまびこ�という点は同じでも、停車駅は違いますね」
 浦上は時刻表を、ひざに置いた。
 先行の�やまびこ16号�は、福島を出ると、大宮までノンストップだ。すなわち、福島を発車してからは、大宮と、終着の上野にしか停車しない。
 一方、宮本が乗ることのできる、後続の�やまびこ122号�は、大宮の他に、郡山、宇都宮と、二駅余分に停車する。
 従って、所要時間も、後続車の方が、十一分余計にかかる計算だ。
「逆なら別ですが、先行車の方がスピードがあるのでは、こりゃ、ますますもって追い付けっこありませんよ」
「しかし、犯人《ほし》は宮本だ。いまさら、宮本以外に考えようもあるまい」
「もちろん、犯人《ほし》が宮本であることは動きません。でも、どうすれば、先行の�やまびこ�に追い付けるのですか」
「追い付くんじゃない。福島で乗り込むんだ」
 谷田は話を戻した。
「これに乗車しない限り不可能な犯行なら、犯人《ほし》は、必ず先行の�やまびこ�に乗っている。それが論理ってものだろう」
「そりゃ、そうかもしれませんが、在来線の到着と、�やまびこ16号�発車の間に存在するのは、わずか一分ですよ。一分で何ができますか」
「�一分�に何を仕掛けることができるか、福島へ行ってみるしかないな」
 谷田が重い口調でつぶやいたとき、二人を乗せた�ひかり348号�は名古屋に到着し、二分の停車で、名古屋駅のホームを離れていた。次の停車駅が新横浜だ。
 車窓から見える秋空が、次第に透明さを欠いて、夕方が近付いている。
「明日は、宮本が上野西署へ出頭する。何としても、捜査本部よりも先に、やつのアリバイを崩したい」
 谷田は窓の外へ目を向けたが、移り変わる風景を見てはいなかった。
 浦上にしても同様である。
 いま、東京へ向かう東海道新幹線に揺られながら、浦上が見ているのは、上野へ向かう東北新幹線の、車窓を過る四日前の風景だった。殺人現場へ直行する、宮本が眺めていた風景。
 あの日は、今日のような快晴ではなかった。列車が東京へ近付くにつれて、黒雲が厚くなっていたのである。
 宮本は、上野到着を二十分速める、いかなる手段を持っていたのだろう?
 京都と同じように、福島へ行けば、霧の中のトリックが見えてくるのか。
 列車の進行に比例して、再度、どうしようもない沈黙が、浦上と谷田を覆った。
 京都駅頭で感じたある種の充実感など、跡形もなく消えて、行く手に見えるのは、四日前の厚い黒雲だけだった。
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