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異域の死者9-2

时间: 2019-04-27    进入日语论坛
核心提示:「はい、あの人は薄いアタッシェケースを持ち、黒いコートを着ていました。間違いありません」 上田という若い駅員は、谷田の発
(单词翻译:双击或拖选)
「はい、あの人は薄いアタッシェケースを持ち、黒いコートを着ていました。間違いありません」
 上田という若い駅員は、谷田の発言を裏付けた。
 あの日宮本が手にしていたのは、アタッシェケースのみで、無論、梨のかごなどは提げていなかったとこたえる上田駅員は、電話で話した通りの、純朴な青年だった。
 しかし、問い合わせの電話が二度もかかり、その上、記者が二人も取材に現われたとあって、
「あの人、何をしたのですか」
 純朴な駅員も、さすがに不審を顔に浮かべたが、浦上は適当にことばをそらして、改札口を出た。
 改札口を背にして、待合室の左手にキヨスクがあり、正面に近い方の右側に、宮本がたたずんでいたという、JRクリーニング店があった。
 JR経営のクリーニング店を、実際に見るのは初めてだ。
「これが船岡駅ですか」
 思わず周囲を見回す浦上は、複雑で、奇妙な感慨に見舞われていた。待合室には、下り列車を待つ女子高校生が四人、いるだけだった。
「先輩、黒いコートの証人は、成瀬夫婦と上田駅員で十分ですね」
「今度こそ、最後にしたいな」
「宮本が、成瀬の女房に電話したのは、あれですかね」
 浦上は赤電話を見つけて、指を差した。五日前の、正にこの時間、宮本はここから、京都府下のダイヤル〇七七一六を、回したのだ。
 無人ではないが、小さい駅だった。
 曇り空の下の駅前には、小型タクシーが一台とまっているだけだ。
 真っ直ぐに伸びる大通りがあったが、やはり、人影は、全くといっていいほど見えないのである。
 だが、町には歴史があった。
「この船岡は、京都の船岡山と関係があるんですね」
 浦上が案内書に目をとめて、言った。
「京都というと、例の派出所の巡査が殺害された、あの船岡山か」
「そうです。ここは原田|甲斐《かい》の城下町なのですね。地形が京都の船岡山に似ているところから、伊達政宗が、命名したそうです」
 会話は、それで終わった。
 浦上も谷田も、所在なげにたばこをくゆらした。
 東北本線船岡駅での、残る�作業�は、十四時三十二分発の、普通列車に乗ることだけだ。それまで、ざっと三十分。
 検討とか分析のための会話は、すべて、出尽くしているのである。
 浦上と谷田は、先の見えないいらだちの中で、三十分を過ごした。
 そして、上り列車が手前のホームに入ってきた。
 浦上は、ホームに出てきた上田駅員に会釈をし、谷田をうながして、�十四時三十二分発�に乗った。
 やはり、空いた車内だった。
 畑を二分して走る列車は、四分で終点大河原だった。
 大河原では、二十一分の待ち合わせで、次の上りに乗り継ぐ。この上りは白石行きであり、白石着が十五時十分。
 今度は二十七分待って、再度上りの普通に乗り換えて、焦点の福島へと出るのである。
 大河原から乗り継いだ列車は、前より少し込んでいたけれど、船岡から白石までの車中、特に発見はなかった。
 臨時の季節急行でも走っていれば、話はうまい。しかし、夢みたいな期待が、現出するはずもなかった。
 一方に、先の見えない焦燥があるとはいえ、ばかみたいに鈍行を乗り換えていく�追体験�は退屈だった。
「考えてみれば、宮本は、船岡駅でも、�十四時三十二分乗車�を第三者に目撃させている。公園の池畔に殺人現場をセッティングしたのと、同一の犯罪センスだな」
 と、谷田がつぶやいたのは二度目の終着、白石駅で下車するときだった。
 降りたホームには、電話が見当たらなかった。
 浦上と谷田の目は、公衆電話のみを追いかけた。跨線橋を渡って、改札口に行った。
「カード電話なら、そちらに並んでますよ」
 改札の駅員は待合室の先を指差した。浦上と谷田は、いったん改札口を出た。
 浦上はショルダーバッグから、一眼レフのカメラを取り出した。
 タクシーもずらっと駐車しているし、船岡よりは、ずっと賑やかな駅前である。紅いサルビアの、一杯に咲き乱れるフラワーボックスが、いくつも置かれてあった。
 広場の向こう側は商店街であり、広場の中央に「国定公園 蔵王連峰」と大きく書かれた時計塔が立っている。
 浦上と谷田が電話コーナーの前で足をとめたのは、宮本が横浜のコンビニエンスストア『浜大』へ伝言電話をかけた時間、十五時十五分だった。
「ここの電話機のどこかに、やつの指紋が残っているかもしれませんね」
 浦上はそんな冗談を言いながら電話コーナーを写し、フラワーボックスが並ぶ駅前にカメラを向けた。
 電話機以外は、無差別な撮り方だった。取材中は特に計算しなくとも、後で利用価値の出てくる場合がある。そこで、構わずシャッターを切るのが、習慣になっている。メモ代わりの意味もあった。
「あれ?」
 浦上が奇声を発したのは、谷田がピース・ライトをくわえ、大きい背中を丸めるようにして、火をつけたときだった。
「先輩、あれを見てください!」
 浦上の声は、自分でもそれと分かるほどに上ずっている。
 浦上は両手でカメラを構え、ファインダーをのぞいたままの姿勢で、つづけた。ほとんど叫び声だった。
「宮本は福島へ行ってはいません!」
 浦上のカメラが捉えているのは、カラーの大きい案内板だった。
「畜生! 何でこんなことに気付かなかったんだ! 終盤の大ポカですよ。こんな見落としがあったのでは、王手のかかるわけがない」
「きみ、ついおとといも、東北新幹線に乗っていたのだったな」
 谷田の声も、いらだった。谷田は浦上と並んで案内板の前に立つと、火をつけたばかりのたばこを足元に捨て、靴の先で、思い切り強く踏みつぶしていた。
 浦上と、そして谷田の視線を吸い寄せたのは、案内板の中央に記された、「現在地 JR白石駅」であり、その斜め左下に見える「新幹線 白石蔵王駅」の標示だった。二つの駅を、バス路線が結んでいる。
 できる! さらに二十七分待って、福島まで鈍行で三十七分揺られて行かなくとも、この白石で、東北新幹線に乗り換えることができる!
「白石蔵王ねえ」
 浦上は何度も、吐き捨てるように繰り返した。
 さっき、浦上と谷田を乗せてきた�やまびこ41号�にしてもそうだし、十月五日、六日と浦上が仙台へ取材のときの新幹線も、往復とも白石蔵王にはとまらなかった。白石蔵王は、東北新幹線の中で、もっとも、停車数の少ない駅であった。
 しかも、さっきも経験したばかりだが、それは、福島—仙台、わずか二十五分の間に挟まれた駅なのである。これまでにも、東北取材は何度か経験しているが、走行中、白石蔵王が意識されたことは、一度もなかった。
 それほど目立たない駅だった。
 しかし、だからといって、終盤での緩手の攻撃は許されないし、そんなことは弁解にも何もなりはしない。
「おい、いつまでカメラをのぞいているんだ!」
 谷田は浦上の肩に手をかけた。
 駅を背にして、右側にバスターミナルがあった。赤と白の、ツートンカラーのバスが何台も駐車している。
「そうですね、バスで十分前後。タクシーなら五分ってところでしょうか」
 バスの誘導員は、浦上の質問にこたえて、白石駅—白石蔵王駅間の所要時間を言い、
「次のバスは、十五時二十三分に発車しますよ」
 と、教えてくれた。
 バスターミナルの隅っこに、突っ立ったままでの、ダイヤチェックとなった。
「畜生!」
 浦上はもう一度舌打ちをしていた。舌打ちは自分に向けられたものだった。
 すなわち、ぴったりのルートが、時刻表に示されていたのである。
 タクシーを利用しなくとも間に合う、時間の配分だった。
 もちろん、横浜の『浜大』へも、十分な余裕を持って、伝言電話をかけることができる。
 
  白石着 十五時十分 東北本線普通(上り)
  (『浜大』へ電話=十五時十五分)
  白石駅発 十五時二十三分 宮城交通バス
  白石蔵王駅着 十五時三十一分
  白石蔵王発 十五時四十五分 東北新幹線�あおば218号�
  福島着 十五時五十八分
  福島発 十六時十五分 東北新幹線�やまびこ16号�
  上野着 十七時四十分
 
「福島駅一分乗り換えのトリックは、宮城交通バスってわけか」
 谷田はバスに乗り込むと、空いた車内のあちこちを見回した。
 畑の中を走るバスだった。
『毎朝日報』横浜支局と、『週刊広場』編集部への電話は、白石蔵王駅に着いてから入れた。人気が少なくて、清潔な感じの、駅構内だった。
「分かったな。そういうことだ。一刻も早く原稿をまとめて、オレが帰る前に、デスクへ提出しておいて欲しい」
 と、若い記者に命じる谷田の怒鳴り声を聞き流しながら、浦上は、
「不忍池経由で、遅くとも午後七時までには編集部へ行きます」
 と、編集長に報告していた。
 そして、軽い足取りで、ホームへ上がった。
 二人は隣の福島駅で�あおば�から�やまびこ�へ乗り換えるとき、(宮本がそうしたように)ホームの売店で、かご詰めの二十世紀梨を買った。
 事件発生以来、五日目の収束である。
 浦上伸介と谷田実憲を乗せた�やまびこ16号�は、一分も狂うことなく、定刻十七時四十分に、上野駅22番線ホームへ到着した。
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