ビーチサンダルの中に、砂が流れ込んでくる。ざらつくというより、むしろなめらかな感触。
水に濡《ぬ》れた砂は、冷たくて重い。乾《かわ》いた砂とは全然違うものみたいだ。
波がやってきて、ふくらはぎまで濡らしていく。
「葛葉《くずは》!」
いきなり腰に、抱きつかれて、葛葉はバランスをくずしそうになる。
「里美《さとみ》、危ないよ」
潤子《ユンジャ》が、横に立ったまま、葛葉の腰にしがみついている里美に注意する。
「葛葉がぼーっとしているんだもん」
「それは、いつものことでしょ」
潮風に、ユンジャの長い髪が巻き上がる。葛葉は少し眩《まぶ》しく思いながら、彼女を見上げた。
砂浜では、桃子《ももこ》と聖《ひじり》が棒で絵を描いている。この海には葛葉たち以外はだれもいない。ほかにだれも。
波が太陽を受けて光っている。葛葉は目を細めてさざめく波を見つめた。
まるで、夢を見ているみたいだ。決して目覚めることのない、長い夢を。
なにから話していけばいいのだろう。あの恐ろしくも凝縮された時間の始まりからか。それとも、わたしたちの生い立ちや関係からだろうか。
なにも珍しいことなどなかった。わたしたちは、同じ高校に通う十七歳の女の子で、そうして、友だちだった。夏休みだった。海に遊びに行った。本当にそれだけ。
それとも、あなたはもうそんなことはとっくに知っている?