「だからこそ魅力的だと思わない?」
ユンジャもそれには賛成し、そうして五人は海に行くことにしたのだ。
新しい水着とか、焼けつくような日射《ひざ》しとか、海の家とかそういう単語を思っただけでもわくわくする。
「それに男の子との出会いもあるかもしれないじゃない」
聖が悪戯《いたずら》っぽく笑って言った。桃子は心でそれに付け加えた。
(でも、わたしたちが男の子に誘われたからってついていくとは思わないけどね)
女子校育ちの桃子たちにとって、少年とはなんだか曖昧《あいまい》なイメージみたいなものだ。それは遠くにあるときだけきらきらしている。話をすると、彼らはみんな幼すぎたし、声をかけられるということ自体に幻滅《げんめつ》した。だから、たぶん本当の男の子に声をかけられても、桃子たちは逃げてしまうだろう。
だけど、そうやって自分たちの話の中にでてくる「男の子」という単語は、それだけで妙に胸|躍《おど》るものだ。
実際に男の子と仲良くすることはなくても、「そういうことがあるかも」と思うだけで、なんとなく楽しい。
そんなこんなで、五人は二泊三日の日程で、近場の海水浴場に出かけたのだ。
その海は、考えていたのとはまったく違った。
狭いくせに、やたらごみごみしていた。疳《かん》の強い子供の集団が、奇声を発していた。薄汚いサーファーたちに、くだらない冗談とともにつきまとわれた。
思い切り叩《たた》きのめされて、民宿に戻った。「安い」という理由だけで選んだその民宿は、釣り宿に毛が生えたようなものだったけど、それでもそんなに悪くはなかった。
夕食は簡素だったけど、新鮮なお刺身《さしみ》などもついていて、おいしかった。蓴菜《じゅんさい》などというものを初めて食べた桃子は、そのぬるぬるとした植物について、宿のおばさんを質問攻めにしてしまった。
和食があまり好きではない里美も、その夕食はおいしいと言って食べた。
宿のおばさんは、五人の女の子を気に入ってくれたらしく、夕食の後に、桃子たちのためにジュースとおかきを出してくれた。
「旅館はよかったけど、海が最低だったわよね」
聖がそう言うと、みんな頷《うなず》いた。
「明日もあそこで泳ぐの?」
「しょうがないじゃない。ほかに泳ぐところないんだし」
桃子は、昼間の嫌な気分を思い出して、大きくため息をついた。
大きなお尻を、食堂の小さな椅子《いす》に押し込めるようにして座っていたおばさんが、右手をぶんぶんと振った。
「あの海水浴場は駄目駄目。近所の人間はだれもあんなところで泳がないね」
「じゃあ、どこで泳ぐんですか?」
「ここから、少し離れたところに島があるのさ。釣りをする人がよく行くから、船も通っている。そこに、遠浅のきれいな海岸があるからね。近所の若い人たちは、みんなそこに行っているみたいだよ」
ユンジャが身を乗り出した。
「そこって、わたしたちでも行けます?」
「もちろんだよ。人が少ないから気分がいいと思うよ」
五人は顔を見合わせて頷いた。